エリートなあなた
「一緒に行こうよ」と言われて、彼の隣を躊躇いがちに歩いていく。
180センチはあろう長身にスラリとした体躯は、細身デザインの紺スーツがよく似合う。
さらにレイヤーの入った短めの黒髪を、クセ毛風に遊ばせているヘアスタイルだ。
そうしてスーツのポケットへ手を突っ込んで歩く姿は、ラフなお洒落さんという出で立ちである。
「セキュリティって、吉川さんもメンドイと思うでしょ?まあ仕方ないけどね。
前にさ、一日に3回も暗証番号の入力ミスったのよ――それ、どうなったと思う?」
「…え?うーん、…警告音が鳴ったとか?」
「残念!正解は“入れたカードキーが粉砕された”でしたー」
「えええ!本当ですかそれ!?」
「うん、吉川さんやってみてよ」
「嫌ですよ!それに、…嘘っぽく感じますけど」
「うーわ、俺さっそく嘘つき扱い?」
「す、すみません!そうじゃなくてっ、」
少し高い声が誘う小さな笑いは、ひんやり冷たい廊下にあたたかみをさすように感じられた。