エリートなあなた


横に座る松岡さんを見れば、嬉しそうになでなでと一向に手を止める素振りはない。



「サラサラだねぇ。手入れされてるぅ」と言われても、至近距離の彼に困惑する。



「…ま、松岡さん?」


「うん?」


「あの、そろそろ仕事って…」


「うーん、もうちょっと」


ニヤリと口元を緩ませたり、柔らかい笑顔を浮かべてみたり。



男女問わずに翻弄するのがこの人。



とにかく笑顔の絶えないイケメンさんは、社内で“スマイル·キラー”として有名だ。



のんびりとしているのに試作部のエースは、実はこの松岡さんであるのだから恐ろしい。



「もうちょっとって、…本当に大丈夫ですか?」


「真帆ちゃんはホントに“良い子”だねー」


相変わらずセミロングの髪の感触を確かめるように、撫でてとまらない彼の手の動き。



かれかれ1分――さすがに彼氏でもない人から、髪に触れられているのはどうだろう?



そちらばかりに気を取られていて、この時の私は大事なフレーズを取りこぼしていた…。



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