エリートなあなた
大きな封筒を抱えながら、おそるおそる黒岩課長を見上げる。
秘書課へ何度か見えた時は会釈したり、会議などで遠目から見たことがある。
前例のないスピードと成果を遂げて、異例の出世を遂げるエリート――これが彼の異名。
確かハーフだと噂で聞いていたけれど。…実際に対峙してみれば、顔とスタイルの良さは芸能人に勝るとも劣らなかった。
そして阿野さんの機嫌の悪さはこれが理由だったのかと、妙に納得した。
「何度が秘書課では会ってるよね?――俺は試作部の黒岩です、よろしく」
「あ、私は吉川です。よ…、よろしくお願いいたします」
小さく頭を下げると、フッと小さく笑われる。恥ずかしさか何か分からないまま鼓動が跳ねた。
「あの、営業部長はご不在でしょうか?」
「打合せが長引いてるらしいよ?」
肝心な用件を尋ねると、デスクチェアを引いた彼が窓に背を向けて腰を下ろした。
「では、すみませんが、…こちらを阪本先輩から預かっておりますので、お渡しいただ」
「――良かったら、少しだけ話に付き合ってくれないかな?
あと10分って言われても、ひとりで待つのは暇なんだ」
「…え?」
このまま渡して早く逃げよう、とした私。それを畳みかけるように、でも穏やかにお願いして来る課長。
ニコリと綺麗な微笑を見せられては打つ手立てもなく、目の前のチェアデスクに座って彼と向き合う。