エリートなあなた
食後の会計は「ごちそうする」と言ってきかない松岡さんと、首を振ってあらがう私のせめぎ合い。
結局、1万円札を出して会計してしまった彼にあっけなく軍配が上がる。
店員さんの「ありがとうございましたー」の声を背中に受けて、またオフィス目指して歩いていく。
「ごちそうさまでした、…色々すみません」
「いいえ、どういたしましてー」と、隣を歩く松岡さんは楽しそうにまた笑っている。
「…その笑いは、何でしょうか?」
「真帆ちゃん、奢って貰うの嫌いでしょ?」
ぐさり、と痛いところをつくのが上手な人だ。並んで歩いている彼の横顔を見て、ひっそり溜め息を吐く。
「…はい。実は元カレと別れる時、“俺が払ってやった今までの金、全部返せ!”って言われてからダメなんですよね…。
あ、でも“ご馳走”って仰る松岡さんはすごいですね」
遠藤さんの驕り発言と比べると、やっぱり相手を気遣っている言葉だ。
はたと気づいて言うと、こちらに顔を向けた彼。うーん、と首を捻ったかと思えば、
「それはねぇ、…真帆ちゃん以上に手強い彼女さんだからかもねー」
「…それって、私より彼女さんに失礼じゃないですか?」
穏やかな日差しと優しい風が頬を掠めていくと、ぽかぽか陽気の春に包まれるような気分のなか笑った。