エリートなあなた
「はっ…?」と、声を漏らした私とは対照的に、松岡さんはニヤニヤと意地悪く笑った。
「真帆ちゃんって呼んでいいのは、オレだけだからね」
これをまた、肯定と受け取ったらしい遠藤さん。どういうわけか、乾いた笑みを浮かべている。
だけど立ち話をする2人に合わせて、小さく笑っていた刹那。
なんとなく視線を移した先で合った、ダークグレイの瞳に動揺する。
そこには、いつもの笑みや穏やかな瞳の色がまったく感じられない。
すると、あっさり逸れた視線。何事もなかったかのように、課長の目はデスクへ戻ってしまった。
まるで“そんなものに興味がない”とでも言うように――
これは始めから分かりきっていたこと。…だけど、ズキズキと心が痛んで苦しくなる。
「真帆ちゃんどーした?」
「…い、いえ!」
遠藤さんは既に席へ戻っていて、同じく席へ着こうとする松岡さんに呼ばれて頭を振った。
自分で自分を守れない私は、まだまだ子供なのだと思い知らされた日となった…。