【短編】婚約破棄された悪役令嬢ですがリスクを回避できて幸せです
「アークライト公爵令嬢? なぜここに?」
「ご無沙汰しております。ハンネス農業大臣様、ユークリッド貿易大臣様」
ドレスではない簡素な服装のシェリルは「このような姿で申し訳ありません」と謝罪した。
「報告は受け取った。戻った早々で悪いが報告を聞かせてもらってもいいか?」
ディートリヒの言葉に大臣たちはもちろんですと答え、シェリルも同席する中、会談の報告が行われる。
「……やはりライナス殿下が」
自国の大臣たちは交渉をしてくれたが、元婚約者のライナスと新恋人がぶち壊したのだと知ったシェリルは大きく息を吐いた。
本当に残念な男だ。
婚約破棄できてよかったけれど、このままでは第一王子のライナス殿下ではなく、第二王子のレイアス殿下が王位を継ぐことになりそうだ。
「それで、シェリルの望みは? もう一度協議をやり直そうか?」
国の代表が決めたことを、たかが公爵令嬢が覆すわけにはいかない。
だが、このままではオレンジの栽培をしている父の領地の人々が苦しんでしまう。
「可能であれば、小麦栽培に詳しい人を1年間だけアークライト領に派遣していただけないでしょうか?」
アークライト公爵令嬢としての最善策はこれだと思ったシェリルは、ダメ元でお願いすることにした。
「……なるほど。モノではなく技術か」
「いやはや、さすがですな」
「それならあちらの王子の面子も保たれる」
ディートリヒだけでなく大臣たちも唸っているけれど、やっぱり欲張りすぎた?
「わかった。まだ誰を行かせるという約束まではできないけれど、そうしよう」
「ありがとう、ディー」
嬉しそうに笑ったシェリルにディートリヒも優しく微笑む。
その二人の雰囲気に、大臣たちはニヤニヤとしながら顔を見合わせた。
翌朝はディートリヒだけでなく大臣たちも一緒にクトウ国の朝食を食べた。
会談も無事に終わったので、今日この港を出発し、クトウ国に戻るそうだ。
「行き先が決まっていないなら、クトウ国はどうだ?」
「いきなり海を渡ったら、父が驚きそう」
でも楽しそうだとシェリルが笑うと、ディートリヒは「本気で誘っているんだけど」と微笑む。
その笑顔も反則ですよ。
ご自身の容姿が見目麗しいという自覚を持った方がいいとアドバイスしたいくらいだ。
シェリルがおいしそうなオレンジゼリーに手を伸ばすと、扉の向こうがざわっと騒がしくなった。
「失礼します。ロイド国のライナス殿下が農業大臣にお会いしたいとお越しになっています」
真面目な顔で「追い返しますか?」と普通に尋ねる侍従に、思わずシェリルは笑ってしまった。
「怒られたのだろうね」
「まぁ、そうだろうね」
ハンネス農業大臣とユークリッド貿易大臣は、「撤回させないけれどね」と笑う。
「俺が行こう」
ディートリヒは侍従に上着を持ってくるように指示すると、扉から出て行ってしまった。
「ご無沙汰しております。ハンネス農業大臣様、ユークリッド貿易大臣様」
ドレスではない簡素な服装のシェリルは「このような姿で申し訳ありません」と謝罪した。
「報告は受け取った。戻った早々で悪いが報告を聞かせてもらってもいいか?」
ディートリヒの言葉に大臣たちはもちろんですと答え、シェリルも同席する中、会談の報告が行われる。
「……やはりライナス殿下が」
自国の大臣たちは交渉をしてくれたが、元婚約者のライナスと新恋人がぶち壊したのだと知ったシェリルは大きく息を吐いた。
本当に残念な男だ。
婚約破棄できてよかったけれど、このままでは第一王子のライナス殿下ではなく、第二王子のレイアス殿下が王位を継ぐことになりそうだ。
「それで、シェリルの望みは? もう一度協議をやり直そうか?」
国の代表が決めたことを、たかが公爵令嬢が覆すわけにはいかない。
だが、このままではオレンジの栽培をしている父の領地の人々が苦しんでしまう。
「可能であれば、小麦栽培に詳しい人を1年間だけアークライト領に派遣していただけないでしょうか?」
アークライト公爵令嬢としての最善策はこれだと思ったシェリルは、ダメ元でお願いすることにした。
「……なるほど。モノではなく技術か」
「いやはや、さすがですな」
「それならあちらの王子の面子も保たれる」
ディートリヒだけでなく大臣たちも唸っているけれど、やっぱり欲張りすぎた?
「わかった。まだ誰を行かせるという約束まではできないけれど、そうしよう」
「ありがとう、ディー」
嬉しそうに笑ったシェリルにディートリヒも優しく微笑む。
その二人の雰囲気に、大臣たちはニヤニヤとしながら顔を見合わせた。
翌朝はディートリヒだけでなく大臣たちも一緒にクトウ国の朝食を食べた。
会談も無事に終わったので、今日この港を出発し、クトウ国に戻るそうだ。
「行き先が決まっていないなら、クトウ国はどうだ?」
「いきなり海を渡ったら、父が驚きそう」
でも楽しそうだとシェリルが笑うと、ディートリヒは「本気で誘っているんだけど」と微笑む。
その笑顔も反則ですよ。
ご自身の容姿が見目麗しいという自覚を持った方がいいとアドバイスしたいくらいだ。
シェリルがおいしそうなオレンジゼリーに手を伸ばすと、扉の向こうがざわっと騒がしくなった。
「失礼します。ロイド国のライナス殿下が農業大臣にお会いしたいとお越しになっています」
真面目な顔で「追い返しますか?」と普通に尋ねる侍従に、思わずシェリルは笑ってしまった。
「怒られたのだろうね」
「まぁ、そうだろうね」
ハンネス農業大臣とユークリッド貿易大臣は、「撤回させないけれどね」と笑う。
「俺が行こう」
ディートリヒは侍従に上着を持ってくるように指示すると、扉から出て行ってしまった。