【短編】婚約破棄された悪役令嬢ですがリスクを回避できて幸せです
「シェリル・アークライト公爵令嬢。どうか俺の妃に」
「ディー!? 急に何を……!」
「初めて街で会った日から、フーグを止めてくれた時からクトウ国に連れて行きたいと思っていた」
 指先に口づけされたシェリルの顔は真っ赤に染まる。
 ディートリヒが私を?
 ディートリヒのリスクは『18』。
 だから騙されているわけではない。
 本当に、私を……?
「アークライト公爵に挨拶しに行ってもいいだろうか?」
 微笑みながらシェリルの手を握るディートリヒに、シェリルは魂が抜けそうだった。

 ディートリヒはシェリルと一緒にロイド国の王都へ。
 国王にライナスとカリナの偽造書類を提出し、シェリルに責任を擦り付けようとしていたと告発した。
 ライナスはその場で廃嫡、カリナは修道院へ。
 だが、締結された会談の内容が覆ることはなかった。
 
 ディートリヒはシェリルの父アークライト公爵へ挨拶し、その場でシェリルと婚約。
 シェリルはそのままクトウ国に行き、一年後に盛大な結婚式を挙げた――。
 
    ◇
 
「シェリル、オレンジティーの入れ物はどちらが女性に好まれるだろうか?」
 目の前に差し出されたシンプルな陶器の入れ物はリスクが『35』、美しい細工の入れ物は『79』。
「こちらのシンプルな方で」
「そうか。高価なら良いというわけではないのだな」
「あ、ベルドラド国に輸出するよりも、ルストリア国の方がいいと思う」
 地図に表示されたリスクは『66』と『34』。
「そういえばこちらは最近山賊が出ると報告があったな」
 すごいなと微笑んでくれるディートリヒのリスクは『9』。
 初めて出会った日でさえ『18』だったのに、こんなにリスクのない完璧な旦那様を手に入れてしまった。

『婚約破棄された悪役令嬢ですがリスクを回避できて幸せです』

 リスクが高いライナスに婚約破棄されて本当によかった。
 
「シェリル、海風は冷えるよ」
 上着をかけてくれる優しい旦那様のディートリヒ。
「かあさま、絵本を読んで」
 お気に入りの絵本を差し出す5歳の息子のフリードリヒ。
 そしてお腹の中の子は、男の子だろうか女の子だろうか。
 
 シェリルはリスクを回避しながら、家族とずっと幸せに暮らしました——。

    END
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