早河シリーズ第三幕【堕天使】
しばらく静寂の時が流れる。上野はぬるくなったコーヒーをすすり、早河は二枚の銃弾の写真を見て押し黙る。
パソコンに向かうなぎさはミスタイプを繰り返していた。
『案外、深読みでもないかもしれませんね。現在わかっているカオス幹部は貴嶋を入れて四人でしたね』
『辰巳時代の幹部の構成を考えても、名前が挙がるのはキングの貴嶋、ケルベロス、スパイダー……おそらくスコーピオンもいるだろう』
「キングがいるならクイーンがいてもおかしくはないですよね。トランプでもチェスでもキングとクイーンがいますから……」
デスクにいるなぎさが唐突に呟いた言葉に早河と上野はハッとして顔を見合わせた。
『確かにクイーンがいてもおかしくはない。クイーン……とすると女?』
『樋口社長の女関係はどうなんです?』
『それが呆れるくらいに女関係は派手なものだった。愛人は四人、他にも女子高生との援助交際までしていたものだから、小山なんかは吐き気がするとボヤいていた。しかし関係があった女は、全員が樋口社長が拉致された時刻のアリバイがある。人を雇って実行させたとも考えられるが、何せ樋口社長は金のなる木だ。わざわざ彼を殺して金銭的援助を失うことはしないだろう。ただひとつ、気になることはある』
上野は手帳を取り出してページをめくった。目的のページを見つけた彼はまた眉間にシワを寄せる。
『樋口社長の愛人のひとりに六本木のホステスがいるんだが、そのホステスからの情報だ。樋口社長の父親……つまり樋口コーポレーション前会長の樋口祥一の子供を産んだ六本木のホステスがいたとか。六本木では有名な話らしい』
『樋口家の家族構成では子供は長男と次男の二人だけですよね。隠し子ですか?』
『あくまでも噂だ。もう20年以上も前の話で樋口祥一は9年前に病死している。事実を確かめようにも祥一の妻の雅子には根も葉もない噂だと否定されたがな』
『正妻としては否定するしかないでしょうね。もし本当に前会長の愛人が子供を産んでいたとすれば子供は20歳以上というとこですね』
すべては憶測。火のない所に煙は立つか、立たないか。
『愛人か子供が樋口コーポレーションを恨んでいるとすれば、カオスと繋がって何かをやらかそうとしているとも考えられます』
『これはカオスが関わっている事件かもしれない。お前に樋口祥一の愛人の調査を頼みたい』
『わかりました。やれるだけのことはやってみます』
今回の依頼人:警視庁捜査一課警部、上野恭一郎
依頼内容:樋口コーポレーション前会長、樋口祥一の愛人捜し
元上司から舞い込んだ依頼。この事件が早河仁と香道なぎさにとっての転換期となることを、彼らはまだ知らなかった。
パソコンに向かうなぎさはミスタイプを繰り返していた。
『案外、深読みでもないかもしれませんね。現在わかっているカオス幹部は貴嶋を入れて四人でしたね』
『辰巳時代の幹部の構成を考えても、名前が挙がるのはキングの貴嶋、ケルベロス、スパイダー……おそらくスコーピオンもいるだろう』
「キングがいるならクイーンがいてもおかしくはないですよね。トランプでもチェスでもキングとクイーンがいますから……」
デスクにいるなぎさが唐突に呟いた言葉に早河と上野はハッとして顔を見合わせた。
『確かにクイーンがいてもおかしくはない。クイーン……とすると女?』
『樋口社長の女関係はどうなんです?』
『それが呆れるくらいに女関係は派手なものだった。愛人は四人、他にも女子高生との援助交際までしていたものだから、小山なんかは吐き気がするとボヤいていた。しかし関係があった女は、全員が樋口社長が拉致された時刻のアリバイがある。人を雇って実行させたとも考えられるが、何せ樋口社長は金のなる木だ。わざわざ彼を殺して金銭的援助を失うことはしないだろう。ただひとつ、気になることはある』
上野は手帳を取り出してページをめくった。目的のページを見つけた彼はまた眉間にシワを寄せる。
『樋口社長の愛人のひとりに六本木のホステスがいるんだが、そのホステスからの情報だ。樋口社長の父親……つまり樋口コーポレーション前会長の樋口祥一の子供を産んだ六本木のホステスがいたとか。六本木では有名な話らしい』
『樋口家の家族構成では子供は長男と次男の二人だけですよね。隠し子ですか?』
『あくまでも噂だ。もう20年以上も前の話で樋口祥一は9年前に病死している。事実を確かめようにも祥一の妻の雅子には根も葉もない噂だと否定されたがな』
『正妻としては否定するしかないでしょうね。もし本当に前会長の愛人が子供を産んでいたとすれば子供は20歳以上というとこですね』
すべては憶測。火のない所に煙は立つか、立たないか。
『愛人か子供が樋口コーポレーションを恨んでいるとすれば、カオスと繋がって何かをやらかそうとしているとも考えられます』
『これはカオスが関わっている事件かもしれない。お前に樋口祥一の愛人の調査を頼みたい』
『わかりました。やれるだけのことはやってみます』
今回の依頼人:警視庁捜査一課警部、上野恭一郎
依頼内容:樋口コーポレーション前会長、樋口祥一の愛人捜し
元上司から舞い込んだ依頼。この事件が早河仁と香道なぎさにとっての転換期となることを、彼らはまだ知らなかった。