早河シリーズ第三幕【堕天使】
「直輝さん……昨日……」
『莉央は途中で意識を失くしてしまったから最後までは覚えていないだろう? ほとんど意識のない莉央を僕がここまで運んで、僕が風呂に入れてあげたんだ。一応、身体の隅々まで洗っておいたよ』
「あなたは私に何をしたのかわかっているのっ?」

 悪びれない相澤の態度に苛立って声を荒くした。相澤はニヒルな表情を崩さずにティーカップをソーサに置く。

『ちょっとしたお遊びさ。莉央だって楽しんでいたじゃないか』
「楽しんでなんかいない!」
『そうかな? じゃあイイモノを見せてあげるよ』

 相澤がテレビのリモコンの電源ボタンを押した。彼は莉央に見てみろと顎でテレビを指す。莉央はバスローブの胸元を手繰り寄せてベッドの真正面の大きなテレビモニターを見た。

「これは……」
『昨日のパーティーの様子。あの部屋にはカメラが仕掛けてあってね。よく撮れているだろう?』

 テレビに映るのは複数の男に囲まれている裸体の莉央の姿だった。

『音量上げようか。この部屋は防音だから、大音量でも音が漏れないから大丈夫だよ』

相澤がテレビの音量を最大にする。目を閉じても聴こえてくる昨夜の自分の声。

「止めて……お願いっ……!」

莉央は目を閉じ、両手で耳を塞いだ。しかしどんなに耳を塞いでも、男達に辱しめを受けながら快楽に溺れる自分の甘ったるい声が耳に入ってくる。

 淫らな姿を晒す莉央の周囲には獣が集まり、彼女の身体を弄んでは奇声をあげる。相澤が映像を一時停止させた。

『ほら、この莉央は凄く綺麗だね。無我夢中に男を求めている。これが雌の本来の姿だ。彫刻にして飾りたいくらい綺麗だよ』

 彼は大きなテレビ画面いっぱいに映し出された莉央の姿に法悦した笑みを浮かべている。莉央は初めて相澤に憎しみの感情を抱いた。

この男は婚約者が複数の男に犯されている姿を綺麗と表現する最低な鬼畜だ。

 テレビの前に立ち塞がった彼女は相澤からリモコンを取り上げ、電源ボタンを押して不愉快な映像を流し続けるテレビを消した。
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