早河シリーズ第三幕【堕天使】
部屋は静まり返っても莉央の怒りは鎮まらない。
「直輝さん。何か違法な薬物をやっていますよね?」
『何を馬鹿げたことを』
「昨日のあの時、誰かがあの薬が……と言っているのが聞こえました。あの薬って何のこと?」
『昨日の莉央は酒に酔っていて意識もはっきりしなかった。聞き間違いか気のせいじゃないかな?』
莉央が問い質しても相澤は平然としている。
「気のせい? でもあの時の直輝さんや他の人達も正常な状態には見えませんでした」
『酒に酔って女を抱いている時に正常な状態でいられる? それに莉央もかなり乱れていたよ』
「だからそれがおかしいんです! あんな……あんな風に……」
テレビ画面に映っていた淫らな自分の姿が目に焼き付いて離れない。莉央はめまいがして壁に片手をついた。
『自分があんな風に乱れるのは俊哉さんに抱かれている時だけ、そう言いたいのかな?』
言葉にならない悲鳴が莉央から漏れる。相澤はニヤニヤと口元を上げて顎をさすった。
『図星か。俊哉さんとはまだ続いているようだね。咎めはしないよ。でもせめて僕と結婚した後は俊哉さんに抱かれるのは控えてくれよ。君が妊娠した時にお腹の子の父親が僕ではない可能性が出てくるのは困る』
「私はあなたとは結婚しない!」
『君が何を言っても無駄だよ。莉央がどう足掻いても、僕と君は結婚する運命にあり、君は僕の子供を産めばそれでいい。子供の数は最低でも二人は作るよ。祖父は君を猫可愛がりしているから、邪魔者扱いされている樋口家にいるよりはよっぽどいいと思うよ』
この気持ちは何なのだろう。憤り? 悔しい? 悲しい? もうよくわからない。
バスローブを脱ぎ捨て服を着て、相澤の自宅を飛び出した。地下鉄の駅まで泣きながら走る莉央を通行人は振り返って見ていく。
自分には何もできない。何の力もない。
死ぬ覚悟も家を飛び出す勇気も、俊哉と離れる決心も大きな流れに逆らう力もない。
抑えていた吐き気に堪えられなくなり、地下鉄のトイレに駆け込んだ。胃液しか出ないものをトイレに流してうずくまる。
嘔吐の苦しさで反射的に流した涙が、頬をつたった。
「直輝さん。何か違法な薬物をやっていますよね?」
『何を馬鹿げたことを』
「昨日のあの時、誰かがあの薬が……と言っているのが聞こえました。あの薬って何のこと?」
『昨日の莉央は酒に酔っていて意識もはっきりしなかった。聞き間違いか気のせいじゃないかな?』
莉央が問い質しても相澤は平然としている。
「気のせい? でもあの時の直輝さんや他の人達も正常な状態には見えませんでした」
『酒に酔って女を抱いている時に正常な状態でいられる? それに莉央もかなり乱れていたよ』
「だからそれがおかしいんです! あんな……あんな風に……」
テレビ画面に映っていた淫らな自分の姿が目に焼き付いて離れない。莉央はめまいがして壁に片手をついた。
『自分があんな風に乱れるのは俊哉さんに抱かれている時だけ、そう言いたいのかな?』
言葉にならない悲鳴が莉央から漏れる。相澤はニヤニヤと口元を上げて顎をさすった。
『図星か。俊哉さんとはまだ続いているようだね。咎めはしないよ。でもせめて僕と結婚した後は俊哉さんに抱かれるのは控えてくれよ。君が妊娠した時にお腹の子の父親が僕ではない可能性が出てくるのは困る』
「私はあなたとは結婚しない!」
『君が何を言っても無駄だよ。莉央がどう足掻いても、僕と君は結婚する運命にあり、君は僕の子供を産めばそれでいい。子供の数は最低でも二人は作るよ。祖父は君を猫可愛がりしているから、邪魔者扱いされている樋口家にいるよりはよっぽどいいと思うよ』
この気持ちは何なのだろう。憤り? 悔しい? 悲しい? もうよくわからない。
バスローブを脱ぎ捨て服を着て、相澤の自宅を飛び出した。地下鉄の駅まで泣きながら走る莉央を通行人は振り返って見ていく。
自分には何もできない。何の力もない。
死ぬ覚悟も家を飛び出す勇気も、俊哉と離れる決心も大きな流れに逆らう力もない。
抑えていた吐き気に堪えられなくなり、地下鉄のトイレに駆け込んだ。胃液しか出ないものをトイレに流してうずくまる。
嘔吐の苦しさで反射的に流した涙が、頬をつたった。