早河シリーズ第三幕【堕天使】
 今回はみき子が折れてくれた。

「ま、いいわ。探しておく。武田さん(※)に情報料はつけておくからね」

(※ 武田健造財務大臣。キャバレーの事実上のオーナー)

『頼むよ。で、娘の行方がわからないって言うのはどういうこと?』
「娘さんに美雪ちゃんの訃報の電話をもらった1ヶ月後に北海道の美雪ちゃんの家に伺ったの。お線香をあげにね。でも美雪ちゃんの家には誰も住んでいなかった。そりゃあ中学生の娘さんひとりで住まわせてはおけないから、どこかに引っ越したのかと思って、近所の人に聞いてみたわ。そうしたら娘さんは突然姿を消したって言うのよね。祥一さんが娘さんを引き取ったんじゃないかな」
『警察の調べでは祥一に愛人がいたことも子供の存在も祥一の妻に否定されたらしいけど』
「そんなの当たり前よ。美雪ちゃんは祥一さんの奥さんのせいで故郷に帰るハメになったんだもの」

みき子はあの頃の記憶を思い出して悲しげに目を細める。

「美雪ちゃんが祥一さんの子供を身籠った時、奥さん怒り狂っちゃってね。あれは凄かった。美雪ちゃんが働いているお店に嫌がらせして美雪ちゃんを東京から追い出したの。その嫌がらせがあまりにも酷かったものだから祥一さんも娘さんを認知するのを諦めるしかなくてね」
『だけどママは祥一が娘を引き取ったと考えているんだろ?』
「祥一さんは娘さんを溺愛していたのよ。樋口家の子供は男の子しか居ないから唯一の女の子でしかも美雪ちゃんによく似ている娘さんが相当可愛かったんでしょう。祥一さんは美雪ちゃんと娘さんに会いに頻繁に北海道にも行っていて、帰りは私のお店によって北海道のお土産を持ってきてくれたの。あの人は本当に気前のいい紳士だった。彼が娘さんを引き取ったのは間違いないと思う」

 いつの間にかみき子は早河の隣の席に腰掛け、ぼんやりと頬杖をついている。生前の寺沢美雪と樋口祥一の歴史の1ページにはみき子の存在もあり、みき子は二人の行く末を見守っていた。

『娘の名前、覚えてる?』
「待ってね。今思い出すから。んー……リサ……リカ……マオ……違うなぁ。べっぴんさんによく似合う綺麗な響きの名前だったんだけど……」

こめかみに手を当ててしばしく唸っていたみき子がパチンと指を鳴らした。

「そうだ。りお! りおちゃんよ!」
『寺沢りお、か……』


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