早河シリーズ第三幕【堕天使】
世間では夏休みが明けて9月を迎えた。年々残暑が厳しくなり、今日もまだ真夏の暑さだ。
犯罪組織カオスのキング、貴嶋佑聖の邸宅には夏の名残のひまわりが庭で黄色い花を咲かせていた。
『ほう。莉央の友人の兄が刑事ねぇ』
二階のバルコニーにはキングとケルベロスがいる。彼らは庭の草木に水やりをする莉央を眺めていた。
『それで妹のために突然姿を消した友人を血眼になって捜しているということか』
『ですが樋口家から捜索願が出されていない現状では、警察は公の捜索はできません。クイーンがこちらにいる以上はどこからも彼女の情報が漏れることはないでしょう』
ケルベロスが詳細なデータをキングに手渡す。資料には警視庁捜査一課所属の香道秋彦と妹の香道なぎさに関するデータが載っていた。
キングは資料に軽く目を通して紙の束をケルベロスに押し戻す。
『一介の刑事が莉央の所在を掴めるとは思えないが、しばらくこの刑事と妹に監視をつける。期間は……そうだな、2週間でいい。私達がアメリカに旅立つまでだ。いいね?』
『はい』
キングの側を辞したケルベロスは階段を降りたところで玄関ホールに入ってきた莉央と出くわした。
「もうお帰りですか?」
『はい。仕事がありますので』
キングがクイーンと名付けて組織に迎え入れた美しい少女は可憐な微笑をケルベロスに向けている。
花の水やりで今まで外にいた莉央の細い首筋にはうっすらと汗が滲み、頬も赤らんでいる。その姿を妙に艶《なまめ》かしく感じてしまい、彼は莉央から目をそらした。
「あっ……」
『どうしました?』
「シャツのボタンが取れかかっていますよ」
莉央がケルベロスのワイシャツの第三ボタンを指差した。彼の第三ボタンは糸が出て今にも取れて落ちてしまいそうだった。
『ああ……朝はちゃんと留まっていたんですが、気付きませんでした』
「お仕事に行かれるまでお時間ありますか? お急ぎですか?」
『まぁ……急ぎの仕事はありませんが』
「それなら、そのボタン、私がつけ直します。これだけならすぐにつけ直せるでしょうし……」
ケルベロスの胸元のボタンに莉央の指先が触れた。シャツ越しに手が触れただけで彼の心臓は激しく脈打つ。
「お仕事の時にボタンが取れてしまうと大変ですよ。ね?」
『しかしだいぶ汗が染み込んでいますよ。そんなものを貴女に触らせるのはちょっと……』
汗臭いシャツを彼女に触らせるのは抵抗があった。だが莉央は狼狽するケルベロスを見て柔らかく笑った。
犯罪組織カオスのキング、貴嶋佑聖の邸宅には夏の名残のひまわりが庭で黄色い花を咲かせていた。
『ほう。莉央の友人の兄が刑事ねぇ』
二階のバルコニーにはキングとケルベロスがいる。彼らは庭の草木に水やりをする莉央を眺めていた。
『それで妹のために突然姿を消した友人を血眼になって捜しているということか』
『ですが樋口家から捜索願が出されていない現状では、警察は公の捜索はできません。クイーンがこちらにいる以上はどこからも彼女の情報が漏れることはないでしょう』
ケルベロスが詳細なデータをキングに手渡す。資料には警視庁捜査一課所属の香道秋彦と妹の香道なぎさに関するデータが載っていた。
キングは資料に軽く目を通して紙の束をケルベロスに押し戻す。
『一介の刑事が莉央の所在を掴めるとは思えないが、しばらくこの刑事と妹に監視をつける。期間は……そうだな、2週間でいい。私達がアメリカに旅立つまでだ。いいね?』
『はい』
キングの側を辞したケルベロスは階段を降りたところで玄関ホールに入ってきた莉央と出くわした。
「もうお帰りですか?」
『はい。仕事がありますので』
キングがクイーンと名付けて組織に迎え入れた美しい少女は可憐な微笑をケルベロスに向けている。
花の水やりで今まで外にいた莉央の細い首筋にはうっすらと汗が滲み、頬も赤らんでいる。その姿を妙に艶《なまめ》かしく感じてしまい、彼は莉央から目をそらした。
「あっ……」
『どうしました?』
「シャツのボタンが取れかかっていますよ」
莉央がケルベロスのワイシャツの第三ボタンを指差した。彼の第三ボタンは糸が出て今にも取れて落ちてしまいそうだった。
『ああ……朝はちゃんと留まっていたんですが、気付きませんでした』
「お仕事に行かれるまでお時間ありますか? お急ぎですか?」
『まぁ……急ぎの仕事はありませんが』
「それなら、そのボタン、私がつけ直します。これだけならすぐにつけ直せるでしょうし……」
ケルベロスの胸元のボタンに莉央の指先が触れた。シャツ越しに手が触れただけで彼の心臓は激しく脈打つ。
「お仕事の時にボタンが取れてしまうと大変ですよ。ね?」
『しかしだいぶ汗が染み込んでいますよ。そんなものを貴女に触らせるのはちょっと……』
汗臭いシャツを彼女に触らせるのは抵抗があった。だが莉央は狼狽するケルベロスを見て柔らかく笑った。