早河シリーズ第三幕【堕天使】
この世界には夜が近付くにつれて賑わう街がある。色とりどりのネオンが交差して人々を夢の国へと誘うここはアメリカネバダ州。カジノで有名な眠らない街、ラスベガス。
莉央が樋口家を出て3年後、2005年10月2日。現地時刻は午後11時。
噴水から上がる水しぶきが七色に彩られている。耳に届くものはすべて異国の言葉。だが目に見えるものはすべてではなくとも母国のそれと似ている。
ビルとネオンの風景はどの国でも似通っていた。
『誕生日まであと1時間ですね』
ラストクロウが腕時計を見て呟いた。莉央は噴水を囲う柵から手を伸ばしてネオンに照らされた七色の水しぶきに触れた。ひんやりと冷たい水の感触が指に触れた。
「日本時間ではとっくに誕生日を過ぎているけどね。もう21歳になるのね」
風が吹き、その風に秋の気配を感じる。
「あなたもお誕生日もうすぐよね」
『この歳になると誕生日も関係ありませんよ。ただの歳をとる日です』
彼は無表情に煙草を咥えている。煙草の煙が秋の風に流れた。莉央はパーカーのポケットに両手を入れて噴水の柵に背をつける。
「そういえばあなたと俊哉お兄さんは同い年なのよね」
『お兄さんに会いたいですか?』
「そうね、どうだろう。……今はまだ会いたくないかな」
耀くネオンの光線の合間にぽっかり空いた闇の空洞。そこに浮かぶのは新月が迫る細い月だった。
「彼に会う時は……彼を殺す時だから」
莉央が樋口家を出て3年後、2005年10月2日。現地時刻は午後11時。
噴水から上がる水しぶきが七色に彩られている。耳に届くものはすべて異国の言葉。だが目に見えるものはすべてではなくとも母国のそれと似ている。
ビルとネオンの風景はどの国でも似通っていた。
『誕生日まであと1時間ですね』
ラストクロウが腕時計を見て呟いた。莉央は噴水を囲う柵から手を伸ばしてネオンに照らされた七色の水しぶきに触れた。ひんやりと冷たい水の感触が指に触れた。
「日本時間ではとっくに誕生日を過ぎているけどね。もう21歳になるのね」
風が吹き、その風に秋の気配を感じる。
「あなたもお誕生日もうすぐよね」
『この歳になると誕生日も関係ありませんよ。ただの歳をとる日です』
彼は無表情に煙草を咥えている。煙草の煙が秋の風に流れた。莉央はパーカーのポケットに両手を入れて噴水の柵に背をつける。
「そういえばあなたと俊哉お兄さんは同い年なのよね」
『お兄さんに会いたいですか?』
「そうね、どうだろう。……今はまだ会いたくないかな」
耀くネオンの光線の合間にぽっかり空いた闇の空洞。そこに浮かぶのは新月が迫る細い月だった。
「彼に会う時は……彼を殺す時だから」