早河シリーズ第三幕【堕天使】
 ※本編第三幕【堕天使】の内容を含みます。

 2009年3月9日。樋口コーポレーション社長、樋口宏伸の拉致事件が発生した。宏伸はその後に東京湾で死体で発見され、立て続けに樋口家の主治医の永山医師が狙撃により射殺。

樋口コーポレーション会長の雅子も殺害された。事件は樋口財閥の人間を狙った連続殺人事件に発展し、樋口家の人間は俊哉を残すだけとなった。

 そして3月25日。俊哉が自宅とする麻布のタワーマンションで莉央と俊哉は再会を果たす。

「ねぇ……私も大人の女になったでしょ?」
『ああ。いい女になった。莉央が世界で一番、いい女だ』

俊哉は欲望を抑えられなかった。何度もキスをし、舌を絡め、強く抱き合う。ワンピースの裾から侵入した俊哉の手が莉央の太ももを撫でた。

 莉央を下にしてソファーに倒れ込む。莉央の上に馬乗りになった俊哉の手が胸元に吸い付き、俊哉の唇が首筋の曲線を這う。
彼の無精髭が莉央の肌の上を滑った。

『今、付き合ってる男いるのか?』
「……一緒に住んでる人がいる」
『そっか……』

 ワンピースの裾がめくれあがり、莉央の白色のショーツが露になった。足首をすり抜けて落下してゆく純白のショーツ、開かれた両脚の中心部に俊哉の指が差し込まれた。

彼の人差し指と中指が触れたそこから響く淫らな水音。
莉央が甘い声を出し、俊哉の息も荒くなる。

 鼻先を擦り付けて無言で見つめ合う。何度目かわからないキスを交わした。

 コートのポケットから注射器を取り出した莉央の手元を一瞬だけ目にした俊哉は、それから目をそらして莉央の耳元に唇を寄せた。

『殺したいなら殺せよ……』

耳元で小さく聞こえた彼の声。溢れそうになる涙を堪えて莉央は注射器の針を俊哉の首筋に注射した。

『……ぅ……』

 短く低い呻き声。莉央の目の前には歪んだ俊哉の顔。ワインレッドの爪先が握る注射器の中の半透明の液体が俊哉の体内に注入された。

「大丈夫。苦しいのは一瞬だから。すぐに楽になる」
『………り……お』

 俊哉の身体は痙攣する。莉央の頬に彼の震える手が触れた。直前まで莉央の膣内に沈んでいた彼の指は彼女の体液で濡れていて、その指で莉央の頬をなぞる。

俊哉は精一杯、口を開けて最期の言葉を囁いた。

『……あ……い……して……る』

 息絶えた彼は莉央の身体に覆い被さる。最期は愛した妹に抱き締められて俊哉の命の火は消えた。

莉央は絶命した俊哉を押し退けてソファーを降りた。彼の身体は床に転がり、そのまま動かない。
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