早河シリーズ第三幕【堕天使】
莉央がアメリカで生活を共にするのは貴嶋とスコーピオンのみ。彼女が顔を会わせたことがあるカオスの幹部、ケルベロス、スパイダー、ラストクロウの三名は、日本を離れられない事情があってアメリカには来ていない。
スパイダーとはパソコンのメール通信で連絡を取り合っている。ラストクロウからもメールが送られてくることもあった。
ケルベロスとメールのやりとりはない。カオスの仕事ではない別の仕事が多忙らしく、ケルベロスのことは莉央はまだよくわからない。
日本にいる間に彼らと顔を会わせた回数は少ない。彼らは莉央をクイーンと呼ぶが、このクイーンと呼ばれる存在について莉央は懐疑的であった。
『どうされました?』
紅茶を飲む莉央の表情の変化にスコーピオンが気付いた。顔に出さないように注意していても、少しの変化もスコーピオンには気付かれてしまう。
莉央はティーカップを静かに置いた。
「“クイーン”って何なのかなって思って。皆が私をクイーンと呼んでくれるけど、私はそんな風に呼ばれるような存在ではないから……」
『貴女はキングがパートナーにお選びになった方です』
「それもどうして私なんかを選んでくれたのか不思議なの」
莉央はとつとつと胸中を話す。
「私はキングのお仕事のお手伝いもできない、お料理もスコーピオンの方が上手よ。英語だって家庭教師やキングに教えてもらって、やっと少し話せるようになったくらい。アメリカに来て私がしていることと言えば、読書をしたり美術館に行ったり、お買い物をしたりキングが与えてくれたお金で遊んでばかり。これでいいのかなって……」
ソファーの傍らに控えていたスコーピオンは立て膝をついて、この若い女主人を温かく見守っていた。
『それでよろしいのですよ。ここでは自由に過ごされることをキングが望んでいます。キングが貴女と住まう街にこのパサデナを選んだのも、この街が貴女と波長が合うと思ったからでしょう』
確かにパサデナは莉央の気質に合っていた。同じアメリカ国内でもニューヨークやシカゴは莉央には馴染めないだろう。
貴嶋は莉央のためにこの街を選んでくれた。住居としたコンドミニアムも莉央のために貴嶋が元のオーナーから買い取ったものだ。
それでも莉央はまだ胸の奥にしこりを感じた。モヤモヤとした何かがある。
『何か気に病んでいらっしゃることが?』
「私とキングの寝室……何で別々なのかな?」
『キングのご帰宅が遅い時にクイーンを起こされないようにとの配慮だと思いますよ』
「それはわかるんだけど……」
この気持ちをどう言えばいいのか、羞恥心のせいで上手く言葉が見つからない。
「私ってキングの恋人……よね?」
『我々はそう認識していますよ。キングはクイーンを心から愛していらっしゃいます』
スコーピオンの言葉が信じられないわけではない。貴嶋は莉央のために居住する街を選び、莉央のために建物を一棟買い上げた。
貴嶋が家にいるときは一緒にテレビを観たり音楽を聴いたり、外に出掛けて食事をしたりショッピングを楽しむこともあった。
恋人達がするデートを莉央と貴嶋はしている。どう見ても二人は恋人同士だった。
『キングはクイーンのお言葉ならば何でも聞き入れてくださいます。もしもお悩みのことがあればキングご本人にお話されてみてはいかがでしょう?』
柔らかな声色で紡がれたスコーピオンの提案に莉央は頷いた。
スパイダーとはパソコンのメール通信で連絡を取り合っている。ラストクロウからもメールが送られてくることもあった。
ケルベロスとメールのやりとりはない。カオスの仕事ではない別の仕事が多忙らしく、ケルベロスのことは莉央はまだよくわからない。
日本にいる間に彼らと顔を会わせた回数は少ない。彼らは莉央をクイーンと呼ぶが、このクイーンと呼ばれる存在について莉央は懐疑的であった。
『どうされました?』
紅茶を飲む莉央の表情の変化にスコーピオンが気付いた。顔に出さないように注意していても、少しの変化もスコーピオンには気付かれてしまう。
莉央はティーカップを静かに置いた。
「“クイーン”って何なのかなって思って。皆が私をクイーンと呼んでくれるけど、私はそんな風に呼ばれるような存在ではないから……」
『貴女はキングがパートナーにお選びになった方です』
「それもどうして私なんかを選んでくれたのか不思議なの」
莉央はとつとつと胸中を話す。
「私はキングのお仕事のお手伝いもできない、お料理もスコーピオンの方が上手よ。英語だって家庭教師やキングに教えてもらって、やっと少し話せるようになったくらい。アメリカに来て私がしていることと言えば、読書をしたり美術館に行ったり、お買い物をしたりキングが与えてくれたお金で遊んでばかり。これでいいのかなって……」
ソファーの傍らに控えていたスコーピオンは立て膝をついて、この若い女主人を温かく見守っていた。
『それでよろしいのですよ。ここでは自由に過ごされることをキングが望んでいます。キングが貴女と住まう街にこのパサデナを選んだのも、この街が貴女と波長が合うと思ったからでしょう』
確かにパサデナは莉央の気質に合っていた。同じアメリカ国内でもニューヨークやシカゴは莉央には馴染めないだろう。
貴嶋は莉央のためにこの街を選んでくれた。住居としたコンドミニアムも莉央のために貴嶋が元のオーナーから買い取ったものだ。
それでも莉央はまだ胸の奥にしこりを感じた。モヤモヤとした何かがある。
『何か気に病んでいらっしゃることが?』
「私とキングの寝室……何で別々なのかな?」
『キングのご帰宅が遅い時にクイーンを起こされないようにとの配慮だと思いますよ』
「それはわかるんだけど……」
この気持ちをどう言えばいいのか、羞恥心のせいで上手く言葉が見つからない。
「私ってキングの恋人……よね?」
『我々はそう認識していますよ。キングはクイーンを心から愛していらっしゃいます』
スコーピオンの言葉が信じられないわけではない。貴嶋は莉央のために居住する街を選び、莉央のために建物を一棟買い上げた。
貴嶋が家にいるときは一緒にテレビを観たり音楽を聴いたり、外に出掛けて食事をしたりショッピングを楽しむこともあった。
恋人達がするデートを莉央と貴嶋はしている。どう見ても二人は恋人同士だった。
『キングはクイーンのお言葉ならば何でも聞き入れてくださいます。もしもお悩みのことがあればキングご本人にお話されてみてはいかがでしょう?』
柔らかな声色で紡がれたスコーピオンの提案に莉央は頷いた。