早河シリーズ第三幕【堕天使】
【2.King】
曇り空の夜。雲の後ろに隠れていた月が姿を現した。
{そちらは変わりないかい?}
『はい。クイーンもお元気に過ごされていますよ』
ニューヨークに滞在する主、貴嶋佑聖からの電話にスコーピオンは丁寧に受け答えをする。彼は自室の書き物机の椅子に腰掛けていた。
{私がいない間の莉央のことは宜しく頼むよ}
『はい。……キング、僭越《せんえつ》ながらクイーンのことでお話がございます』
{どうした?}
『私が踏み込むことではありませんが、クイーンはキングとのご関係に悩まれていらっしゃるご様子でした。どうやらご自分がキングの恋人であると自信を持てないようで』
スコーピオンは机に置いた写真立てを手に取る。そこには亡き妻と娘の思い出の笑顔があった。
{ははぁん。なるほどね。あの子は自分を卑下する癖がある。もう少し自信を付けさせないといけないかな}
『私がクイーンに申せることは限られています。キングのお言葉が何よりもクイーンを安心させます』
{わかった。莉央のことは考えておこう。それにしても君も、莉央には過保護だねぇ}
君主は笑っていた。過保護なのは貴嶋の方だとスコーピオンは思っているが、主に絶対的な忠誠を誓う彼は口には出さない。
愛する者に愛を伝えられるうちが華だ。愛する者が消えてしまってから、どれだけ愛を囁いても天に昇った者には届かない。
その悲しみをスコーピオンは知っていた。
曇り空の夜。雲の後ろに隠れていた月が姿を現した。
{そちらは変わりないかい?}
『はい。クイーンもお元気に過ごされていますよ』
ニューヨークに滞在する主、貴嶋佑聖からの電話にスコーピオンは丁寧に受け答えをする。彼は自室の書き物机の椅子に腰掛けていた。
{私がいない間の莉央のことは宜しく頼むよ}
『はい。……キング、僭越《せんえつ》ながらクイーンのことでお話がございます』
{どうした?}
『私が踏み込むことではありませんが、クイーンはキングとのご関係に悩まれていらっしゃるご様子でした。どうやらご自分がキングの恋人であると自信を持てないようで』
スコーピオンは机に置いた写真立てを手に取る。そこには亡き妻と娘の思い出の笑顔があった。
{ははぁん。なるほどね。あの子は自分を卑下する癖がある。もう少し自信を付けさせないといけないかな}
『私がクイーンに申せることは限られています。キングのお言葉が何よりもクイーンを安心させます』
{わかった。莉央のことは考えておこう。それにしても君も、莉央には過保護だねぇ}
君主は笑っていた。過保護なのは貴嶋の方だとスコーピオンは思っているが、主に絶対的な忠誠を誓う彼は口には出さない。
愛する者に愛を伝えられるうちが華だ。愛する者が消えてしまってから、どれだけ愛を囁いても天に昇った者には届かない。
その悲しみをスコーピオンは知っていた。