早河シリーズ第三幕【堕天使】
リビングの大きなソファーに並んで座る。ラフマニノフの音色に耳を傾ける貴嶋はまずコーヒーの香りを楽しんだ。
『莉央が淹れてくれるコーヒーは格別に美味しいね』
「スコーピオンの方が美味しいですよ」
『愛する人の手で淹れられたコーヒーは特に美味しいということさ』
自然に抱き寄せられた肩。莉央の頭が貴嶋の肩に触れた。
『莉央。私に何か言いたいことがあるんだろう?』
「えっ……」
『思っていることを言ってごらん。今日の私は莉央のことしか考えていない。仕事もしない。だからいくらでも話を聞くよ』
まさか貴嶋から話を向けられるとは思わず、狼狽する莉央は瞳を泳がせる。彼女はカフェオレが半分残るカップをテーブルに置き、うつむいた。
「あの……私とキングは恋人……ですよね?」
『そうだよ。私は君をとても愛しく思っている』
「キングのお気持ちは嬉しいです。私なんかを好きになってくれて、何から何までお世話をしてもらって……」
この気持ちを形容する言葉が見つからない。莉央は膝の上で両手を握り締める。その手の上を貴嶋の大きな手のひらが包んだ。
「今までその……体の関係だけが愛情表現だと思っていたんです。兄とは……いつも……そうだったから」
莉央は兄の俊哉のことを考えていた。俊哉との愛の表現はいつもベッドの上。
そこでしか彼と愛し合うことは許されなかった。
『セックスも大切な愛情表現だ。何も間違っていないよ』
「じゃあ……どうして……キングは私に触れないんですか?」
莉央の漆黒の瞳は涙ぐんでいた。莉央の手のひらを包む貴嶋の手が彼女の頬に触れている。
『今もこうして君に触れているよ』
「そうじゃなくて……」
『まだ、君と私は“何もしていない”。その事を言っているんだね』
アメリカで二人が共に住み始めて2ヶ月近く。莉央が家出をして貴嶋と出会った期間を入れると3ヶ月以上は、彼と多くの時間を共有している。
しかし莉央と貴嶋にはまだ肉体関係がない。抱き締め、手を繋ぐことはあっても二人はキスもしていない。
俊哉との恋愛は情欲にまみれていた。他の恋愛を彼女は知らない。
だからキスすらしていない貴嶋との関係は、恋人と言えるのか莉央には疑問だった。
『莉央は私とセックスがしたいの?』
「えっ……あの、それは、そうじゃなくて……そんなダイレクトに……その……」
『今のはそうだって聞こえたよ?』
口元を斜めにした貴嶋と至近距離で見つめ合う。貴嶋の何もかも見透かす瞳はヘーゼルの色。魔力を秘めた魔性の瞳。
『私の寝室に行こう』
耳元で聞こえた貴嶋の甘い囁きに莉央の心臓が跳ねた。
『莉央が淹れてくれるコーヒーは格別に美味しいね』
「スコーピオンの方が美味しいですよ」
『愛する人の手で淹れられたコーヒーは特に美味しいということさ』
自然に抱き寄せられた肩。莉央の頭が貴嶋の肩に触れた。
『莉央。私に何か言いたいことがあるんだろう?』
「えっ……」
『思っていることを言ってごらん。今日の私は莉央のことしか考えていない。仕事もしない。だからいくらでも話を聞くよ』
まさか貴嶋から話を向けられるとは思わず、狼狽する莉央は瞳を泳がせる。彼女はカフェオレが半分残るカップをテーブルに置き、うつむいた。
「あの……私とキングは恋人……ですよね?」
『そうだよ。私は君をとても愛しく思っている』
「キングのお気持ちは嬉しいです。私なんかを好きになってくれて、何から何までお世話をしてもらって……」
この気持ちを形容する言葉が見つからない。莉央は膝の上で両手を握り締める。その手の上を貴嶋の大きな手のひらが包んだ。
「今までその……体の関係だけが愛情表現だと思っていたんです。兄とは……いつも……そうだったから」
莉央は兄の俊哉のことを考えていた。俊哉との愛の表現はいつもベッドの上。
そこでしか彼と愛し合うことは許されなかった。
『セックスも大切な愛情表現だ。何も間違っていないよ』
「じゃあ……どうして……キングは私に触れないんですか?」
莉央の漆黒の瞳は涙ぐんでいた。莉央の手のひらを包む貴嶋の手が彼女の頬に触れている。
『今もこうして君に触れているよ』
「そうじゃなくて……」
『まだ、君と私は“何もしていない”。その事を言っているんだね』
アメリカで二人が共に住み始めて2ヶ月近く。莉央が家出をして貴嶋と出会った期間を入れると3ヶ月以上は、彼と多くの時間を共有している。
しかし莉央と貴嶋にはまだ肉体関係がない。抱き締め、手を繋ぐことはあっても二人はキスもしていない。
俊哉との恋愛は情欲にまみれていた。他の恋愛を彼女は知らない。
だからキスすらしていない貴嶋との関係は、恋人と言えるのか莉央には疑問だった。
『莉央は私とセックスがしたいの?』
「えっ……あの、それは、そうじゃなくて……そんなダイレクトに……その……」
『今のはそうだって聞こえたよ?』
口元を斜めにした貴嶋と至近距離で見つめ合う。貴嶋の何もかも見透かす瞳はヘーゼルの色。魔力を秘めた魔性の瞳。
『私の寝室に行こう』
耳元で聞こえた貴嶋の甘い囁きに莉央の心臓が跳ねた。