早河シリーズ第三幕【堕天使】
 ──24歳のなぎさが16歳の頃の自分の話を終えた。早河は相づちを返すだけでほとんど喋らずになぎさの話を聞いていた。

「それからの莉央はクラスの子達とも仲良くなって、優しい子だから皆に好かれていました」
『北海道に住んでいたって言ってたが、彼女の両親は?』
「自分の話はしたがらない子でした。私も詳しくは知らないんですけど……中二の時にお母さんが病気で亡くなって、東京にいるお父さんに引き取られて東京に引っ越して来たって……」
『樋口祥一の娘の話と一致するな』
「所長は私の友達の寺沢莉央と樋口祥一の娘の寺沢りおが同一人物だと考えているんですか?」

 なぎさが語気を強めた。彼女の気持ちはわかるが早河は冷静だった。

『寺沢りおなんて名前、そんなに同姓同名もない。年齢や環境も類似点が多い。なぎさの友達の寺沢莉央が樋口祥一の娘だと考えるのが妥当だ』
「莉央が樋口社長を殺した犯人かもしれないって言うんですか?」
『それはまだわからない。しかし寺沢りおが樋口祥一の娘である以上は樋口家との繋がりがある。高三の夏に居なくなったとは具体的にどういうことだ?』
「夏休みにいきなり連絡が取れなくなったんです。先生に事情を聞いても何も教えてくれなくて……私に何も言わずに莉央は……」

なぎさの膝の上に置かれた手が固く握りしめられ震えていた。

 寺沢莉央の失踪と貴嶋佑聖が失踪した状況はよく似ている。

誰にも告げずに彼らは突然姿を消し、そして再び現れた。
破滅的なストーリーを背負って。


第一章 END
→第二章 天使の殺戮 に続く
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