早河シリーズ第三幕【堕天使】
 人間とはどこまでも醜く汚れている。どこまでも醜く堕ちていく。
人を殺めた彼女も醜く汚れている。けれどたとえ醜く汚れてもたとえ人殺しの十字架を背負っても……彼女は彼らを殺すことを選んだ。

「さっき、“どうして私がこんな目に遭うのか”と言っていたわね。答えは簡単じゃない。自業自得なのよ。すべてあなたがしてきたことの結果なの」
「あんたに何がわかるのよ……っ!」
「わからないわ。あなたに私の苦しみがわからないようにね」

 数秒後。莉央はトリガーを引いた。

        *

 薄暗い非常階段を降りていると片耳にしているイヤモニに入電が入る。声の主はスパイダーだ。

{1分後に地下駐車場Bゲートを3分間だけ開きます。そこから外に出て右に折れてください。スコーピオンが車で待機しています}
「了解」

ヒールの音が階段に響く。

{それとあと5分後に警察が到着します}
「警察にしては早いわね。ありがとうスパイダー」

 スパイダーがセキュリティシステムをハッキングしてロックを解除した地下駐車場のBゲートから彼女は外に出た。指示通り右に曲がるとスコーピオンが車の扉を開けて待っている。

莉央が車に乗り込むのとほぼ同時に、サイレンを鳴らしたパトカーが次々と道を通り過ぎていく。赤い点滅が樋口コーポレーション本社の前に溜まっていく光景が見えた。

「第三ステージは終わったわ」
『お疲れ様でした。残るはあとひとりですね』
「最後のひとりにはたっぷりと絶望してもらいましょう。そのために生かしておくんだから」

 どんなに醜く汚れようとも地獄へ堕ちていくとしても、大切な人と唯一の居場所を奪ったあの人間達を彼女は許さない。

これは天使の裁き。天使の殺戮なのだ。
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