早河シリーズ第三幕【堕天使】
莉央と祥一の姿が見えなくなると雅子は苦々しく溜息をつく。
「アレがあの女の娘ねぇ。ずいぶん派手な顔付きね」
『おいおい、母さん。可愛い顔だって素直に褒めてやれよ。あれなら将来は母親に似て美人になるだろうな』
雅子の口調は刺々しい。俊哉はやれやれと苦笑いしてソファーに座った。家政婦が俊哉の分のコーヒーを運んでくる。
不機嫌な顔で雅子は俊哉をねめつけた。
「俊哉、あんたあの女を見たことがあるの?」
『あるよ。前に仲間と北海道旅行した時に莉央達が住んでる街にも寄ったんだ。親父から住所は聞いてたからそこでちらっと。親父を落とした六本木イチの美女ホステスに興味もあったし』
『わざわざ見に行くとは暇人め。あわよくばあの女を自分の女にするつもりだったんじゃないか?』
突っかかる宏伸をやんわりとかわした俊哉は口元を斜めにした。
『さすがに親父の女に手を出す趣味はないぜ。でも女ってのは思春期になると変わるねぇ。俺が見たときの莉央はまだちんちくりんのガキだったのに』
「どこまでもあの女に似てきてああ、忌々しい」
不機嫌な表情を変えることなく雅子はリビングを出ていき、宏伸も太った腹を重たそうに撫でて席を立った。
ひとり残された俊哉は先ほど会った妹の顔を思い出す。たったひとりの妹は、予想外に美しく成長していた。
(でもどんなに美人に育っても俺にロリコン趣味はねぇし、妹に手を出すほど女に困ってもないからな)
莉央も俊哉も、雅子も宏伸も、そして祥一も。この後に起きる悲劇を誰も予想していない。誰も想像していない。
莉央と俊哉の間に生じる感情を、まだ誰も予想していなかった。まだ誰も想像していなかった。
美しい天使が舞い降りた此処は楽園か、それとも地獄か。
「アレがあの女の娘ねぇ。ずいぶん派手な顔付きね」
『おいおい、母さん。可愛い顔だって素直に褒めてやれよ。あれなら将来は母親に似て美人になるだろうな』
雅子の口調は刺々しい。俊哉はやれやれと苦笑いしてソファーに座った。家政婦が俊哉の分のコーヒーを運んでくる。
不機嫌な顔で雅子は俊哉をねめつけた。
「俊哉、あんたあの女を見たことがあるの?」
『あるよ。前に仲間と北海道旅行した時に莉央達が住んでる街にも寄ったんだ。親父から住所は聞いてたからそこでちらっと。親父を落とした六本木イチの美女ホステスに興味もあったし』
『わざわざ見に行くとは暇人め。あわよくばあの女を自分の女にするつもりだったんじゃないか?』
突っかかる宏伸をやんわりとかわした俊哉は口元を斜めにした。
『さすがに親父の女に手を出す趣味はないぜ。でも女ってのは思春期になると変わるねぇ。俺が見たときの莉央はまだちんちくりんのガキだったのに』
「どこまでもあの女に似てきてああ、忌々しい」
不機嫌な表情を変えることなく雅子はリビングを出ていき、宏伸も太った腹を重たそうに撫でて席を立った。
ひとり残された俊哉は先ほど会った妹の顔を思い出す。たったひとりの妹は、予想外に美しく成長していた。
(でもどんなに美人に育っても俺にロリコン趣味はねぇし、妹に手を出すほど女に困ってもないからな)
莉央も俊哉も、雅子も宏伸も、そして祥一も。この後に起きる悲劇を誰も予想していない。誰も想像していない。
莉央と俊哉の間に生じる感情を、まだ誰も予想していなかった。まだ誰も想像していなかった。
美しい天使が舞い降りた此処は楽園か、それとも地獄か。