早河シリーズ第三幕【堕天使】
『あーあ。兄貴。女の子に手を上げちゃダメだろ。だから兄貴はモテないんだって。莉央、大丈夫か?』
床の間の入り口に俊哉が立っている。彼は畳に倒れている莉央を抱き起こした。
泣きじゃくる莉央をあやす俊哉は彼女の背中越しに宏伸と視線を合わせた。
それは暗黙の了解を確認するもの。
『莉央。お前さぁ、よく俺に子供扱いするなって言ってたよな?』
「言ったけど……」
伏せていた顔を上げた莉央は俊哉の顔を見て硬直する。俊哉の手が莉央の顎を持ち上げた。
『子供扱いはもう終わりにしてやるよ』
俊哉は莉央にキスをした。唇に柔らかい接触が起きる。
口内に侵入してきた俊哉の舌に呼吸を妨げられ、とても苦しい。莉央がどれだけ俊哉の胸元を押しやっても俊哉は莉央を離さない。
初めてのキスの感覚に莉央の頭は真っ白になった。
『お前、俺のこと好きだろ? それが兄としてか男としてなのかは知らねぇけど、俺は別にどっちでもいい。どうせ男と女がやることはひとつだ』
キスの合間の俊哉の問いに素直に頷けなかった。彼が好きだとは言えなかった。こんなこと望んでいない。
莉央の反応を見た俊哉は喉を鳴らして笑った。俊哉の目に男の色が濃くなってゾクリと鳥肌が立つ。
このままでは危ないと、本能的な身の危険を感じた彼女は俊哉を突き飛ばして彼の拘束から必死で逃れる。
俊哉が逃げる莉央の腕を掴んだ。
『待てよ。逃がさないぜ。今から気持ちいいことするんだからそんなに嫌がるなよ』
「嫌っ! 離してっ! ……あ、お、おかあさん……!」
床の間の前の廊下に雅子の姿を見つけた。雅子は腕を組んでこちらを見ている。
「助けて! おかあさん!」
莉央は雅子に向けて叫んだが、雅子は冷笑した。
「あんたに“おかあさん”なんて呼ばれたくないわね。あんたが宏伸達を誘惑したからこうなるのよ。やっぱり水商売の女の娘ねぇ。ふしだらな子」
冷たい眼差しで莉央を一瞥した雅子は彼女に背を向けて廊下と床の間を隔てる襖《ふすま》を閉めた。
俊哉と宏伸の二人がかりで莉央は床の間の奥に引き摺り込まれ、押し倒された。
絶望が莉央を襲う。これから彼らに何をされるのかわからない恐怖と、信頼していた俊哉に裏切られたショックで莉央の身体は強張り、目には涙が溢れた。
父、祥一の遺骨の目の前で莉央の女性としての尊厳は二人の兄によって奪われた。
床の間の入り口に俊哉が立っている。彼は畳に倒れている莉央を抱き起こした。
泣きじゃくる莉央をあやす俊哉は彼女の背中越しに宏伸と視線を合わせた。
それは暗黙の了解を確認するもの。
『莉央。お前さぁ、よく俺に子供扱いするなって言ってたよな?』
「言ったけど……」
伏せていた顔を上げた莉央は俊哉の顔を見て硬直する。俊哉の手が莉央の顎を持ち上げた。
『子供扱いはもう終わりにしてやるよ』
俊哉は莉央にキスをした。唇に柔らかい接触が起きる。
口内に侵入してきた俊哉の舌に呼吸を妨げられ、とても苦しい。莉央がどれだけ俊哉の胸元を押しやっても俊哉は莉央を離さない。
初めてのキスの感覚に莉央の頭は真っ白になった。
『お前、俺のこと好きだろ? それが兄としてか男としてなのかは知らねぇけど、俺は別にどっちでもいい。どうせ男と女がやることはひとつだ』
キスの合間の俊哉の問いに素直に頷けなかった。彼が好きだとは言えなかった。こんなこと望んでいない。
莉央の反応を見た俊哉は喉を鳴らして笑った。俊哉の目に男の色が濃くなってゾクリと鳥肌が立つ。
このままでは危ないと、本能的な身の危険を感じた彼女は俊哉を突き飛ばして彼の拘束から必死で逃れる。
俊哉が逃げる莉央の腕を掴んだ。
『待てよ。逃がさないぜ。今から気持ちいいことするんだからそんなに嫌がるなよ』
「嫌っ! 離してっ! ……あ、お、おかあさん……!」
床の間の前の廊下に雅子の姿を見つけた。雅子は腕を組んでこちらを見ている。
「助けて! おかあさん!」
莉央は雅子に向けて叫んだが、雅子は冷笑した。
「あんたに“おかあさん”なんて呼ばれたくないわね。あんたが宏伸達を誘惑したからこうなるのよ。やっぱり水商売の女の娘ねぇ。ふしだらな子」
冷たい眼差しで莉央を一瞥した雅子は彼女に背を向けて廊下と床の間を隔てる襖《ふすま》を閉めた。
俊哉と宏伸の二人がかりで莉央は床の間の奥に引き摺り込まれ、押し倒された。
絶望が莉央を襲う。これから彼らに何をされるのかわからない恐怖と、信頼していた俊哉に裏切られたショックで莉央の身体は強張り、目には涙が溢れた。
父、祥一の遺骨の目の前で莉央の女性としての尊厳は二人の兄によって奪われた。