早河シリーズ第三幕【堕天使】
午後9時半。四ッ谷駅前の新宿通り沿いに店を構える珈琲専門店Edenは間もなく閉店時間を迎えようとしていた。
珈琲豆の販売を行う一階にはまだ数人の客がいた。店を訪れた長身の男は客達の間をすり抜けて二階のカフェに繋がる階段を上がる。
『お前がここに来るなんて珍しいな』
Edenのマスターの田村克典は二階に上がって来たケルベロスを一瞥した。カフェにはケルベロスと田村の他には従業員も客もいない。
『近くまで来たからここで一服しようと思ってな』
ケルベロスはカウンター席に座り、煙草を取り出した。カウンターの下では長い脚が窮屈そうに組まれている。
『いつものブレンドでいいか?』
『ああ。頼む』
田村がケルベロスに出すコーヒーの豆を炒り始めた。ケルベロスは煙草の味を楽しみながらコーヒーが出来るのを待つ。
『いよいよラストステージか』
『あとは決行を待つだけだ』
ケルベロスの言葉に田村が続く。
『最後の獲物はゆっくり時間をかけて』
『じわじわと死の恐怖に怯えさせながら……な。女王の降臨には最高の演出だ』
ケルベロスがニヤリと笑い、田村も不敵に微笑んだ。
今の田村の目は珈琲専門店のオーナーの目ではなく、犯罪組織カオスのスコーピオンの目をしていた。
ケルベロスがスコーピオンの淹れたコーヒーを飲んでいる時とちょうど同時刻、早河探偵事務所にはまだ明かりが灯っていた。
『どう頑張っても寺沢莉央に関しては簡単な経歴しか掴めませんね。2006年に帰国が確認されていますから2006年当時の生存は確認できていますが、それ以降はまったく。戸籍は一切動いていませんし、現住所がどこなのかもわからない。これじゃあ警察もお手上げですよ』
事務所を訪れた矢野一輝が早河に報告書を渡した。早河は報告書に目を通す。
寺沢莉央の出生地は北海道小樽市、生年月日は1984年10月3日。
樋口祥一と寺沢美雪の長女。本籍地は現在も渋谷区松濤の樋口邸となっているが現住所は不明。
珈琲豆の販売を行う一階にはまだ数人の客がいた。店を訪れた長身の男は客達の間をすり抜けて二階のカフェに繋がる階段を上がる。
『お前がここに来るなんて珍しいな』
Edenのマスターの田村克典は二階に上がって来たケルベロスを一瞥した。カフェにはケルベロスと田村の他には従業員も客もいない。
『近くまで来たからここで一服しようと思ってな』
ケルベロスはカウンター席に座り、煙草を取り出した。カウンターの下では長い脚が窮屈そうに組まれている。
『いつものブレンドでいいか?』
『ああ。頼む』
田村がケルベロスに出すコーヒーの豆を炒り始めた。ケルベロスは煙草の味を楽しみながらコーヒーが出来るのを待つ。
『いよいよラストステージか』
『あとは決行を待つだけだ』
ケルベロスの言葉に田村が続く。
『最後の獲物はゆっくり時間をかけて』
『じわじわと死の恐怖に怯えさせながら……な。女王の降臨には最高の演出だ』
ケルベロスがニヤリと笑い、田村も不敵に微笑んだ。
今の田村の目は珈琲専門店のオーナーの目ではなく、犯罪組織カオスのスコーピオンの目をしていた。
ケルベロスがスコーピオンの淹れたコーヒーを飲んでいる時とちょうど同時刻、早河探偵事務所にはまだ明かりが灯っていた。
『どう頑張っても寺沢莉央に関しては簡単な経歴しか掴めませんね。2006年に帰国が確認されていますから2006年当時の生存は確認できていますが、それ以降はまったく。戸籍は一切動いていませんし、現住所がどこなのかもわからない。これじゃあ警察もお手上げですよ』
事務所を訪れた矢野一輝が早河に報告書を渡した。早河は報告書に目を通す。
寺沢莉央の出生地は北海道小樽市、生年月日は1984年10月3日。
樋口祥一と寺沢美雪の長女。本籍地は現在も渋谷区松濤の樋口邸となっているが現住所は不明。