早河シリーズ第三幕【堕天使】
 俊哉が最後に見た莉央の姿は18歳の少女だった。24歳になった莉央はあの頃よりもさらに美しく熟した女に成長していた。

欲しい、と思った。
手に入れたい、と思った。

 目の前の女が氷の女王でも雪の女王でも悪魔でも、妹の姿をした化け物だったとしても、どうしようもなく、この女が欲しい。

『なぁ莉央。俺と組まないか?』
「組む? どういうこと?」
『俺は樋口コーポレーションとは別にして中国にいくつか会社を持ってるんだ。そのひとつをお前にやるよ。香港でも上海でも好きなとこ選べ。お前だって殺人犯になっちまって日本じゃ生きにくいだろ? 俺と一緒に向こうで暮らさないか?』
「本当に会社をくれるの?」
『ああ、約束する』

 莉央はしばらく俊哉と視線だけの駆け引きをかわし、微笑して拳銃をポケットに戻した。

「やっぱりあなたを最後に残して正解だった」
『交渉成立だな。どうだ、今から二人のこれからに一杯やらないか?』
「その前に……」

 莉央がソファーにいる俊哉の膝の上に腰を降ろした。彼の膝の上で向かい合い、キスをする。
俊哉の両手は自然と莉央の細い腰と背中に回っていた。

「ねぇ……私も大人の女になったでしょ?」
『ああ。いい女になった。莉央が世界で一番、いい女だ』

俊哉は欲望を抑えられなかった。何度もキスをし、舌を絡め、強く抱き合う。ワンピースの裾から侵入した俊哉の手が莉央の太ももを撫でた。

 莉央を下にしてソファーに倒れ込む。莉央の上に馬乗りになった俊哉の手が胸元に吸い付き、俊哉の唇が首筋の曲線を這う。
彼の無精髭が莉央の肌の上を滑った。

『今、付き合ってる男いるのか?』
「……一緒に住んでる人がいる」
『そっか……』

 ワンピースの裾がめくれあがり、莉央の白色のショーツが露になった。足首をすり抜けて落下してゆく純白のショーツ、開かれた両脚の中心部に俊哉の指が差し込まれた。

彼の人差し指と中指が触れたそこから響く淫らな水音。
莉央が甘い声を出し、俊哉の息も荒くなる。
鼻先を擦り付けて無言で見つめ合う。何度目かわからないキスを交わした。

『……ぅ……』

 短く低い呻き声。莉央の目の前には歪んだ俊哉の顔。

「大丈夫。苦しいのは一瞬だから。すぐに楽になる」

莉央の手は俊哉の首の後ろに回っていた。ワインレッドの爪先が握る注射器の中の半透明の液体が俊哉の体内に注入された。

『……り……お』

 俊哉の身体は痙攣する。莉央の頬に彼の震える手が触れた。直前まで莉央の膣内に沈んでいた彼の指は彼女の体液で濡れていて、その指で莉央の頬をなぞる。

俊哉は精一杯、口を開けて最期の言葉を囁いた。

『……あ……い……して……る……』

 息絶えた彼は莉央の身体に覆い被さる。莉央は絶命した俊哉を押し退けてソファーを降りた。彼の身体は床に転がり、そのまま動かない。
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