早河シリーズ第三幕【堕天使】
グレージュ色の長い髪が夜風になびく。テラスから見えるのは大木の桜。この桜の木の樹齢を彼女は知らない。
寺沢莉央は通話を切った携帯電話をテラスのテーブルに置いた。側では貴嶋佑聖が木製のガーデンチェアに腰掛けてワインを飲んでいる。
『久しぶりに友人の声を聞いた感想は?』
「昔と変わらない、真っ直ぐな子だった」
莉央はテラスのウッドデッキを降りて桜の木の下に立つ。なぎさの携帯電話の位置情報をさっきスパイダーに確認してもらった。
彼女も今頃、目黒川の桜を眺めているだろう。
貴嶋もデッキを降り、莉央を後ろから抱き締める。
『後悔している?』
「何も後悔していない。これが私が選んだ道だもの」
莉央は身体を反転させて貴嶋に抱きついた。貴嶋の手が優しく莉央の髪を撫で、桜の木の下で二人は長いキスをする。
「キング……海に行きたい」
『いいよ。どこの海にでも連れていこう。どこがいい?』
「珊瑚の綺麗なところ。あと綺麗なお魚がいる海がいいな」
『モルディブかオーストラリアか、カリブの海もいいね。シュノーケリングでもしようか』
「ふふっ。そうね。それで綺麗な海にこれを沈めたいの」
莉央の左手に握られているのは俊哉の自宅から持ち去った銀の花の指輪。小さな銀の花が連なった指輪はくすんでいて花の中央についたスワロフスキーの輝きも濁っている。
貴嶋は莉央の華奢な手にある銀の指輪に目を細めた。
『まるで海に撒く散骨だね』
「そんなようなものね。この指輪は“寺沢莉央”の脱け殻なのよ」
ごめんね、とさようなら、とありがとう。を繰り返して彼女は闇に堕ちていく。
楽園を追放された天使が片翼となった翼を下ろした場所。やっと見つけた居場所は、冥界の魔王が支配する闇の中だった。
第四章 END
→エピローグに続く
寺沢莉央は通話を切った携帯電話をテラスのテーブルに置いた。側では貴嶋佑聖が木製のガーデンチェアに腰掛けてワインを飲んでいる。
『久しぶりに友人の声を聞いた感想は?』
「昔と変わらない、真っ直ぐな子だった」
莉央はテラスのウッドデッキを降りて桜の木の下に立つ。なぎさの携帯電話の位置情報をさっきスパイダーに確認してもらった。
彼女も今頃、目黒川の桜を眺めているだろう。
貴嶋もデッキを降り、莉央を後ろから抱き締める。
『後悔している?』
「何も後悔していない。これが私が選んだ道だもの」
莉央は身体を反転させて貴嶋に抱きついた。貴嶋の手が優しく莉央の髪を撫で、桜の木の下で二人は長いキスをする。
「キング……海に行きたい」
『いいよ。どこの海にでも連れていこう。どこがいい?』
「珊瑚の綺麗なところ。あと綺麗なお魚がいる海がいいな」
『モルディブかオーストラリアか、カリブの海もいいね。シュノーケリングでもしようか』
「ふふっ。そうね。それで綺麗な海にこれを沈めたいの」
莉央の左手に握られているのは俊哉の自宅から持ち去った銀の花の指輪。小さな銀の花が連なった指輪はくすんでいて花の中央についたスワロフスキーの輝きも濁っている。
貴嶋は莉央の華奢な手にある銀の指輪に目を細めた。
『まるで海に撒く散骨だね』
「そんなようなものね。この指輪は“寺沢莉央”の脱け殻なのよ」
ごめんね、とさようなら、とありがとう。を繰り返して彼女は闇に堕ちていく。
楽園を追放された天使が片翼となった翼を下ろした場所。やっと見つけた居場所は、冥界の魔王が支配する闇の中だった。
第四章 END
→エピローグに続く