早河シリーズ第三幕【堕天使】
 上下する俊哉の胸元に頬を寄せた。左胸の心臓の鼓動が聞こえて彼の体温と鼓動が心地いい。
嫌いなのに。嫌いなのに。

「……好き」
『俺も』

返事を期待していない独り言に返ってきた言葉に莉央は慌てて顔を上げた。先ほどまで閉じていた俊哉の瞼が開いている。
苦笑いする彼と視線が交わった。

「起きてたの?」
『たった今な』

身体を起こした俊哉はこめかみを手で押さえた。

「頭痛い?」
『寝る前までは痛かったけど少し寝たら治った。莉央の告白が聞けてラッキーだったな』
「あれは……別に告白じゃない……です」

 莉央は頬を赤くして目を泳がせている。反論する声の響きも弱々しい。
純情でか弱い、欲しくて欲しくてたまらない可愛い妹。俊哉は莉央の髪に触れた。

『髪濡れてる。ドライヤーした?』
「まだ……」
『乾かしてやる』

 莉央をドレッサーの椅子に座らせ、彼女の長い黒髪にドライヤーを当てる。

 誰かに髪を乾かしてもらう行為はくすぐったくて、むず痒い。それが意識をしている異性ならば尚の事、髪に触れられているだけなのに優しく触れる手つきが恥ずかしくて、顔にも身体にも熱が溜まっていく。

俊哉に髪を乾かしてもらうのは初めてではない。まだ二人が兄と妹だった頃も彼は何度かこうして髪を乾かしてくれた。
俊哉は優しい兄だった。

 ドレッサーの鏡越しに俊哉を見つめる。慣れた手つきで莉央の髪を扱う彼と鏡の中で目が合った。
そのまま鏡越しに無言で視線を合わせ続け、莉央の黒髪の上を俊哉の指が滑った。

 ドライヤーが終わると俊哉はネクタイをほどき、ベッドに腰かけた。ワイシャツのボタンを外してシャツを脱いだ彼はまだドレッサーにいる莉央を手招きした。

『来いよ』

 導かれるまま誘われるまま莉央は俊哉の腕に捕獲される。
 導かれるまま誘われるまま莉央は俊哉のものになっていく。
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