早河シリーズ第三幕【堕天使】
莉央が寝息を立てたのを確認すると俊哉は静かにベッドを出た。服を着る前に莉央の肩まで布団をかけ直してやる。
(コイツはまだやっと16歳なんだよな)
莉央は同年代の少女に比べて見かけは大人びている。兄の俊哉でさえ彼女の年齢を忘れてしまいそうになるが、まだ16歳。……もう16歳。
(16の子供に欲情して、しかもそれが妹って何やってんだろうな、俺)
莉央を抱いた後にいつも残る罪悪感。
誰に対する罪悪感だろう?
自分自身に? 莉央に? それとも父の祥一に?
どれだけ罪悪感に苛《さいな》まれても莉央を求めてしまう。
莉央の部屋を出たところで呼び止められた。長男の宏伸が階段を上がってくる。
『莉央の部屋にいたのか』
『ああ。莉央はもう寝たよ』
ネクタイを手に持ち、ワイシャツは羽織って数個ボタンを止めただけの格好をした俊哉を見て、宏伸は今まで俊哉が何をしていたのか察した。
『パーティーを抜け出して妹と遊ぶとは感心できないな。下にはまだ客人がいるんだぞ』
『俺がいなくても兄貴と母さんがいれば充分だろ』
俊哉はけだるく壁にもたれた。酔いは覚めているが莉央と一緒にいた時には治まっていた頭痛の気配を感じた。
『何言ってる。莉央はともかく、お前は樋口家の正統だ。副社長になったんだからせめて客人に顔を売ることはしておけ。大口の取引先の社長もいらしていたんだ』
『はいはい、わかってますよ。……なぁ、兄貴は莉央のことどう思ってんの?』
スラックスのポケットに両手を入れて粗暴な態度の俊哉に宏伸は眉を寄せた。
『質問の意味がわからんな』
『別に難しくねぇだろ。莉央が好きか嫌いか、兄貴はどうなんだ?』
『莉央は妹だ』
宏伸の答えを聞いた俊哉は短く口笛を鳴らす。
『兄貴でも莉央を妹だと思ってんだな。意外』
『あれで一応は血の繋がりがある。俺は母さんほど莉央を憎んではいない』
『けど莉央からすれば俺達は最低な兄貴だろうな。俺がいない間に兄貴も莉央とヤってんだろ?』
宏伸は答える代わりに鼻息を漏らす。ふらつく足取りで宏伸の横を通り過ぎた俊哉は数歩進んで振り向いた。
『俺さ、莉央のこと女として愛してるのかも』
『何を馬鹿げたことを言ってる?』
『馬鹿げた……そうだよなぁ。バカなのは俺だ』
あははっと笑いながら俊哉は千鳥足で廊下を歩き、彼の部屋に消えた。
(コイツはまだやっと16歳なんだよな)
莉央は同年代の少女に比べて見かけは大人びている。兄の俊哉でさえ彼女の年齢を忘れてしまいそうになるが、まだ16歳。……もう16歳。
(16の子供に欲情して、しかもそれが妹って何やってんだろうな、俺)
莉央を抱いた後にいつも残る罪悪感。
誰に対する罪悪感だろう?
自分自身に? 莉央に? それとも父の祥一に?
どれだけ罪悪感に苛《さいな》まれても莉央を求めてしまう。
莉央の部屋を出たところで呼び止められた。長男の宏伸が階段を上がってくる。
『莉央の部屋にいたのか』
『ああ。莉央はもう寝たよ』
ネクタイを手に持ち、ワイシャツは羽織って数個ボタンを止めただけの格好をした俊哉を見て、宏伸は今まで俊哉が何をしていたのか察した。
『パーティーを抜け出して妹と遊ぶとは感心できないな。下にはまだ客人がいるんだぞ』
『俺がいなくても兄貴と母さんがいれば充分だろ』
俊哉はけだるく壁にもたれた。酔いは覚めているが莉央と一緒にいた時には治まっていた頭痛の気配を感じた。
『何言ってる。莉央はともかく、お前は樋口家の正統だ。副社長になったんだからせめて客人に顔を売ることはしておけ。大口の取引先の社長もいらしていたんだ』
『はいはい、わかってますよ。……なぁ、兄貴は莉央のことどう思ってんの?』
スラックスのポケットに両手を入れて粗暴な態度の俊哉に宏伸は眉を寄せた。
『質問の意味がわからんな』
『別に難しくねぇだろ。莉央が好きか嫌いか、兄貴はどうなんだ?』
『莉央は妹だ』
宏伸の答えを聞いた俊哉は短く口笛を鳴らす。
『兄貴でも莉央を妹だと思ってんだな。意外』
『あれで一応は血の繋がりがある。俺は母さんほど莉央を憎んではいない』
『けど莉央からすれば俺達は最低な兄貴だろうな。俺がいない間に兄貴も莉央とヤってんだろ?』
宏伸は答える代わりに鼻息を漏らす。ふらつく足取りで宏伸の横を通り過ぎた俊哉は数歩進んで振り向いた。
『俺さ、莉央のこと女として愛してるのかも』
『何を馬鹿げたことを言ってる?』
『馬鹿げた……そうだよなぁ。バカなのは俺だ』
あははっと笑いながら俊哉は千鳥足で廊下を歩き、彼の部屋に消えた。