早河シリーズ第三幕【堕天使】
莉央は封筒を持って樋口邸の重厚な扉を押し開けた。紺色のスーツを着た根岸秘書が玄関に現れる。秘書は莉央を見て少し驚いた様子だった。
「失礼ですが樋口副社長の妹さんでいらっしゃいますか?」
「はい。妹の莉央です」
莉央から封筒を受け取った秘書の女はローズピンクの口元を上げた。
「私は樋口副社長の秘書の根岸響子と申します。副社長からお嬢様のお話は伺っていましたの。お目にかかれて光栄です」
「兄が私の話を?」
「はい。副社長はよくお嬢様のお話をなさいますよ。溺愛のし過ぎで過保護じゃないかと心配になるくらいに」
根岸響子はふふっと笑った口元に手を当てた。ピンクベージュのマニキュアが塗られた白い手だ。
彼女は何がそんなに面白いのだろう?
響子の年齢は二十代半ばから後半に見える。ちょうど莉央とは10歳くらいの差だ。
紺色のジャケットに同じ色と素材のタイトスカート、スーツに合わせているシャツは薄いピンク。
タイトな作りのスーツは響子の細身な体つきに似合っていた。
派手ではないがキリッと整えられた眉毛、ローズピンクのルージュ、焦げ茶色のセミロングの髪は毛先を緩く巻いている。
第一印象は仕事のできる有能な秘書。しかし彼女はそれだけではない。響子は自分が“女”であることを全身で主張していた。
スーツを着こなす有能で綺麗な女秘書の響子に対して莉央はメイクをしていない素顔にリラックスしたワンピース姿。
高校生で年相応だと思えばいいのだが、莉央は今日ほど自分が子供っぽく思えた日はなかった。
響子は腕時計を一瞥して封筒を脇に抱えた。
「お休みのとこを申し訳ありませんでした。副社長は少々忘れっぽいところがありますから。失礼致します」
「ご苦労様でした」
丁寧にお辞儀をして響子が樋口邸の小道を引き返していく。莉央は門の向こうに赤い車が停められていることに気付く。
響子はその赤い車に乗り込み、車が走り去った。
女は女の敵に敏感だ。それも好きな男の周囲にいる女には過剰反応してしまう。
根岸響子からは俊哉と同じコロンの香りが漂っていた。響子が俊哉との関係を誇示しているように思えて莉央は不愉快でたまらなかった。
「失礼ですが樋口副社長の妹さんでいらっしゃいますか?」
「はい。妹の莉央です」
莉央から封筒を受け取った秘書の女はローズピンクの口元を上げた。
「私は樋口副社長の秘書の根岸響子と申します。副社長からお嬢様のお話は伺っていましたの。お目にかかれて光栄です」
「兄が私の話を?」
「はい。副社長はよくお嬢様のお話をなさいますよ。溺愛のし過ぎで過保護じゃないかと心配になるくらいに」
根岸響子はふふっと笑った口元に手を当てた。ピンクベージュのマニキュアが塗られた白い手だ。
彼女は何がそんなに面白いのだろう?
響子の年齢は二十代半ばから後半に見える。ちょうど莉央とは10歳くらいの差だ。
紺色のジャケットに同じ色と素材のタイトスカート、スーツに合わせているシャツは薄いピンク。
タイトな作りのスーツは響子の細身な体つきに似合っていた。
派手ではないがキリッと整えられた眉毛、ローズピンクのルージュ、焦げ茶色のセミロングの髪は毛先を緩く巻いている。
第一印象は仕事のできる有能な秘書。しかし彼女はそれだけではない。響子は自分が“女”であることを全身で主張していた。
スーツを着こなす有能で綺麗な女秘書の響子に対して莉央はメイクをしていない素顔にリラックスしたワンピース姿。
高校生で年相応だと思えばいいのだが、莉央は今日ほど自分が子供っぽく思えた日はなかった。
響子は腕時計を一瞥して封筒を脇に抱えた。
「お休みのとこを申し訳ありませんでした。副社長は少々忘れっぽいところがありますから。失礼致します」
「ご苦労様でした」
丁寧にお辞儀をして響子が樋口邸の小道を引き返していく。莉央は門の向こうに赤い車が停められていることに気付く。
響子はその赤い車に乗り込み、車が走り去った。
女は女の敵に敏感だ。それも好きな男の周囲にいる女には過剰反応してしまう。
根岸響子からは俊哉と同じコロンの香りが漂っていた。響子が俊哉との関係を誇示しているように思えて莉央は不愉快でたまらなかった。