早河シリーズ第三幕【堕天使】
 帰りがけに手洗いに立つ俊哉を待っている間、莉央はベンチに座ってぼうっと空を見上げていた。そんな莉央に近付く四人の若い男達。

『誰待ってるの? さっき一緒にいたの彼氏?』

男のひとりが声をかけてきた。莉央達と同じいちご狩りのグループにいた四人組だ。

「えっと……」
『可愛いね。どっから来たの?』
「東京から……」
『おお、俺らは神奈川なんだよ。歳いくつ?』
「……16……です」
『16! まじっ? じゃあ高校生?』

 莉央が16歳と知ると四人の間でちょっとした騒ぎになった。盛り上がった彼らはベンチにいる莉央を取り囲み、二人の男が莉央の両側に座った。

『ホントに16? 大人っぽいねぇ。ハタチくらいかと思ってた』
『16で彼氏と旅行かぁ』
『携帯持ってる? 彼氏にナイショでこっそり連絡先教えてよ』
「あの、携帯は持っていなくて……」
『えー? 本当は持ってるでしょ?』

 こうして男達に声をかけられることは今までもあった。
いつもはなぎさ達が対処してくれて難を逃れてきたが、たまにひとりでいる時に声をかけられると対応に困ってしまう。

『今日彼氏とどっか泊まるの? 16歳ってどこまで進んでる?』
『ってことはもう処女じゃないんだよね? 初めての相手ってあの彼氏?』

 卑猥な内容の質問が矢継ぎ早に繰り出されて莉央は堪えられずに立ち上がった。男達に囲まれて狼狽する莉央の腕を誰かが引いた。

『初めての相手は俺だけど、文句ある?』

 俊哉に抱き締められて莉央は安堵する。俊哉は莉央をナンパしてきた四人組を視線で威嚇した。

年齢では俊哉の方が男達よりも上だ。財閥の息子の身分に恥じない身なりの俊哉からは凡人にはないオーラがある。
俊哉の威嚇に怯んだ男達が捨て台詞を吐いて立ち去るまで俊哉は莉央を離さなかった。

『ひとりにしておくとすぐにこれだな』
「ごめんなさい」
『彼女守るのは彼氏の役目。気にするな』

 莉央の肩を抱いて俊哉は農園の駐車場に向かう。さりげなく言われた彼氏と彼女の単語。
ナンパしてきた四人組も俊哉を彼氏だと思っていた。

(やっぱり私達は恋人に見えるのかな)

 二人はいちご農園を出て河口湖の湖畔にある河口湖ハーブ館に入った。ここはハーブを好む莉央のために俊哉が選んだ場所だ。
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