早河シリーズ第三幕【堕天使】
Act2. 禁断の果実
俊哉との山梨旅行から1週間が経った4月上旬。莉央は高校二年生に進級した。
莉央が通う聖蘭学園ではクラス替えがなく、3年間同じクラスメートと過ごすことになる。変わったのは教室が二年生の階になっただけで、クラスメートの顔ぶれは前と変わらない。
「莉央、おっはよー!」
教室に入ってきた莉央に真っ先に話しかけてきたのは香道なぎさだ。彼女は莉央が高校に入学して初めて出来た友達。
人見知りをしてクラスに馴染めなかった莉央をクラスメートの輪に入れてくれた存在だ。
「おはよう」
なぎさの生き生きとした明るい笑顔を見るとこちらまで元気になれる。指定の席にカバンを置いた莉央は隣の席の加藤麻衣子と目を合わせた。
「麻衣子、おはよう」
「おはよう莉央。二年生もよろしくね」
麻衣子は机にソーイングセットを広げて縫い物をしている。
「何作ってるの?」
「隼人が今度サッカーの試合なの。だから必勝祈願の御守りみたいなものかな」
麻衣子は布を縫い合わせて小さな袋を作っていた。麻衣子には同い年の隼人と亮の二人の幼なじみの男の子がいる。
「今度の試合は留学がかかってるんだ。サッカー協会の人が試合を観に来て、留学候補者の中で誰を留学させるか決めるの」(※)
「へぇ。もし隼人くんが選ばれたら留学しちゃうの?」
なぎさが聞くと麻衣子は寂しげに頷いた。
(※【白昼夢スピンオフ】収録作【mirage】story1参照)
「もし隼人が選ばれたら3年か4年くらいはイタリアに行くことになる」
「けっこう長い間離れちゃうじゃない! 隼人くんに告白しなくていいの?」
「今の隼人はサッカー留学のことで頭がいっぱいだから告白して煩わせたくないの」
麻衣子となぎさのやりとりを隣で聞いていた莉央は麻衣子が羨ましかった。隼人と言う幼なじみが麻衣子の好きな人だ。
好きな人の存在を堂々と友達に話すことができる麻衣子やなぎさをいつも羨ましく思っていた。
(私は俊哉お兄さんのこと誰にも言えないから)
俊哉と行った山梨の旅行の思い出話もなぎさや麻衣子には言えない。好きな人は兄。
誰にも言えない秘密の恋愛。
左手の薬指に触れる。あの日、桜の木の下でこの指に嵌められたものは指輪なんかじゃない。
あの銀の花の指輪は身勝手で最低な男の束縛と呪いが込められた鎖だ。
それでもあの男の束縛が心地よくてあの男の愛に囚われる。
東京の桜は少しずつ散り始めていた。俊哉と見た山梨の八木崎公園の桜はきっと今頃は満開を迎えて綺麗な花を咲かせているだろう。
(嫌いなのに好きなんて、よくわからない感情だよね。私だってこの感情が何なのかよくわからないもの)
小さく溜息をついた莉央はなぎさと麻衣子と一緒に教室を出て、朝礼が行われる礼拝堂に続く廊下を歩いた。
莉央が通う聖蘭学園ではクラス替えがなく、3年間同じクラスメートと過ごすことになる。変わったのは教室が二年生の階になっただけで、クラスメートの顔ぶれは前と変わらない。
「莉央、おっはよー!」
教室に入ってきた莉央に真っ先に話しかけてきたのは香道なぎさだ。彼女は莉央が高校に入学して初めて出来た友達。
人見知りをしてクラスに馴染めなかった莉央をクラスメートの輪に入れてくれた存在だ。
「おはよう」
なぎさの生き生きとした明るい笑顔を見るとこちらまで元気になれる。指定の席にカバンを置いた莉央は隣の席の加藤麻衣子と目を合わせた。
「麻衣子、おはよう」
「おはよう莉央。二年生もよろしくね」
麻衣子は机にソーイングセットを広げて縫い物をしている。
「何作ってるの?」
「隼人が今度サッカーの試合なの。だから必勝祈願の御守りみたいなものかな」
麻衣子は布を縫い合わせて小さな袋を作っていた。麻衣子には同い年の隼人と亮の二人の幼なじみの男の子がいる。
「今度の試合は留学がかかってるんだ。サッカー協会の人が試合を観に来て、留学候補者の中で誰を留学させるか決めるの」(※)
「へぇ。もし隼人くんが選ばれたら留学しちゃうの?」
なぎさが聞くと麻衣子は寂しげに頷いた。
(※【白昼夢スピンオフ】収録作【mirage】story1参照)
「もし隼人が選ばれたら3年か4年くらいはイタリアに行くことになる」
「けっこう長い間離れちゃうじゃない! 隼人くんに告白しなくていいの?」
「今の隼人はサッカー留学のことで頭がいっぱいだから告白して煩わせたくないの」
麻衣子となぎさのやりとりを隣で聞いていた莉央は麻衣子が羨ましかった。隼人と言う幼なじみが麻衣子の好きな人だ。
好きな人の存在を堂々と友達に話すことができる麻衣子やなぎさをいつも羨ましく思っていた。
(私は俊哉お兄さんのこと誰にも言えないから)
俊哉と行った山梨の旅行の思い出話もなぎさや麻衣子には言えない。好きな人は兄。
誰にも言えない秘密の恋愛。
左手の薬指に触れる。あの日、桜の木の下でこの指に嵌められたものは指輪なんかじゃない。
あの銀の花の指輪は身勝手で最低な男の束縛と呪いが込められた鎖だ。
それでもあの男の束縛が心地よくてあの男の愛に囚われる。
東京の桜は少しずつ散り始めていた。俊哉と見た山梨の八木崎公園の桜はきっと今頃は満開を迎えて綺麗な花を咲かせているだろう。
(嫌いなのに好きなんて、よくわからない感情だよね。私だってこの感情が何なのかよくわからないもの)
小さく溜息をついた莉央はなぎさと麻衣子と一緒に教室を出て、朝礼が行われる礼拝堂に続く廊下を歩いた。