早河シリーズ第三幕【堕天使】
雅子の機嫌が妙にいい。怪訝に思った俊哉は母親の表情を観察した。
(母さん何企んでる? あんなに莉央を樋口の人間として表に出すことを嫌がってたのに)
雅子の真意を探るため、俊哉は夕食後に雅子の部屋を訪れた。
『莉央をパーティーに呼んで母さんは何を考えてるわけ? 母さんが莉央を樋口の人間として公の場に出すのはどう考えても怪しいだろ』
「あんたが心配するような悪巧みは考えていませんよ。莉央にとっては悪いお話ではないの」
雅子の含み笑いに俊哉はある疑念が湧く。
『まさかそのパーティーで莉央に見合いでもさせる気?』
「あんたは莉央のことになると勘が働くのねぇ。そう。相澤会長のお孫さんを莉央の婚約者にどうかって話になっているの。お相手は相澤社長の長男の直輝さん。フランスに留学されていた方で、先月帰国なさったの。私も直輝さんにはこの前お会いしたばかりだけれど、若いのにとても紳士的で素敵な方よ」
どうやら相澤グループの御曹司は雅子のお気に入りとなったらしい。
「相澤会長は莉央の出生のことも、うちの事情も全てご存知で莉央を直輝さんの嫁にと言ってくださったの。こんなにいい縁談は他にないでしょう?」
『なるほど。相澤グループが抱えている電子機器産業はこれからもっと発展する。莉央が相澤に嫁に行けば樋口コーポレーションとしても相澤グループのバックアップが得られるってことか』
俊哉は雅子の機嫌の良さを理解した。彼は苛立ちを抑えるのに必死だった。
莉央の婚約者、莉央の結婚。まさかこんなに早くにその時が訪れるとは思わなかった。
「そういうこと。婚約の話は莉央には黙っていてね。ただでさえ場馴れをしていないあの子が、婚約の話を知れば行きたがらないでしょ」
『今回のメインは莉央ってことね。結局悪巧みと変わらねぇじゃん』
「俊哉。あんたにひとつ言っておく。莉央と楽しむのは好きにすればいいわ。でもあの子を孕《はら》ませないでちょうだいね? 嫁入り前の大事な身体なんですから。兄との子供を妊娠して中絶なんて、そんなことがあれば相澤会長に申し訳ないわ」
『……母さんが大事なのは莉央の身体じゃなくて世間体だろ』
苛立ちに任せて言葉を吐き捨て、彼は雅子の部屋を出た。自室には戻らずにノックもしないで莉央の部屋に入る。
『指輪。出して』
突然の来訪に戸惑う莉央の左手を握り締めて俊哉が囁いた。莉央はドレッサーの引き出しから指輪のケースを出して彼に渡す。
俊哉は莉央の左手薬指に銀の花の指輪を嵌めた。これがあの山梨旅行から帰って来てからの二人の儀式。
これは愛の指輪ではない。束縛の鎖だ。
押し倒した莉央のスカートをめくりあげ、無理やり両脚を開かせた。ショーツのラインに沿って俊哉はキスマークを付けていく。
彼にされるがままの莉央は太ももの内側にチクリとした痛みを何度も感じた。
──“あの子を孕ませないでちょうだいね”──
雅子の言葉が頭の中をリピートする。
わかっている。莉央との結婚を望むことも、莉央に自分の子供を宿すことも、世間がそれを許してくれない。
だけど時々、本気で莉央を孕ませたくなる。この綺麗な身体の中に自分以外の男の精子が入り込み、莉央の一部と交ざる……考えただけで吐き気がする。
俊哉には堪えられない。それならいっそのこと、自分が……。
汚泥のような黒い想いを抱えて俊哉は銀の花の指輪をつけた莉央を腕の中に閉じ込めた。
(母さん何企んでる? あんなに莉央を樋口の人間として表に出すことを嫌がってたのに)
雅子の真意を探るため、俊哉は夕食後に雅子の部屋を訪れた。
『莉央をパーティーに呼んで母さんは何を考えてるわけ? 母さんが莉央を樋口の人間として公の場に出すのはどう考えても怪しいだろ』
「あんたが心配するような悪巧みは考えていませんよ。莉央にとっては悪いお話ではないの」
雅子の含み笑いに俊哉はある疑念が湧く。
『まさかそのパーティーで莉央に見合いでもさせる気?』
「あんたは莉央のことになると勘が働くのねぇ。そう。相澤会長のお孫さんを莉央の婚約者にどうかって話になっているの。お相手は相澤社長の長男の直輝さん。フランスに留学されていた方で、先月帰国なさったの。私も直輝さんにはこの前お会いしたばかりだけれど、若いのにとても紳士的で素敵な方よ」
どうやら相澤グループの御曹司は雅子のお気に入りとなったらしい。
「相澤会長は莉央の出生のことも、うちの事情も全てご存知で莉央を直輝さんの嫁にと言ってくださったの。こんなにいい縁談は他にないでしょう?」
『なるほど。相澤グループが抱えている電子機器産業はこれからもっと発展する。莉央が相澤に嫁に行けば樋口コーポレーションとしても相澤グループのバックアップが得られるってことか』
俊哉は雅子の機嫌の良さを理解した。彼は苛立ちを抑えるのに必死だった。
莉央の婚約者、莉央の結婚。まさかこんなに早くにその時が訪れるとは思わなかった。
「そういうこと。婚約の話は莉央には黙っていてね。ただでさえ場馴れをしていないあの子が、婚約の話を知れば行きたがらないでしょ」
『今回のメインは莉央ってことね。結局悪巧みと変わらねぇじゃん』
「俊哉。あんたにひとつ言っておく。莉央と楽しむのは好きにすればいいわ。でもあの子を孕《はら》ませないでちょうだいね? 嫁入り前の大事な身体なんですから。兄との子供を妊娠して中絶なんて、そんなことがあれば相澤会長に申し訳ないわ」
『……母さんが大事なのは莉央の身体じゃなくて世間体だろ』
苛立ちに任せて言葉を吐き捨て、彼は雅子の部屋を出た。自室には戻らずにノックもしないで莉央の部屋に入る。
『指輪。出して』
突然の来訪に戸惑う莉央の左手を握り締めて俊哉が囁いた。莉央はドレッサーの引き出しから指輪のケースを出して彼に渡す。
俊哉は莉央の左手薬指に銀の花の指輪を嵌めた。これがあの山梨旅行から帰って来てからの二人の儀式。
これは愛の指輪ではない。束縛の鎖だ。
押し倒した莉央のスカートをめくりあげ、無理やり両脚を開かせた。ショーツのラインに沿って俊哉はキスマークを付けていく。
彼にされるがままの莉央は太ももの内側にチクリとした痛みを何度も感じた。
──“あの子を孕ませないでちょうだいね”──
雅子の言葉が頭の中をリピートする。
わかっている。莉央との結婚を望むことも、莉央に自分の子供を宿すことも、世間がそれを許してくれない。
だけど時々、本気で莉央を孕ませたくなる。この綺麗な身体の中に自分以外の男の精子が入り込み、莉央の一部と交ざる……考えただけで吐き気がする。
俊哉には堪えられない。それならいっそのこと、自分が……。
汚泥のような黒い想いを抱えて俊哉は銀の花の指輪をつけた莉央を腕の中に閉じ込めた。