早河シリーズ第三幕【堕天使】
2月21日(Thu)

 港区の高層ホテルのパーティー会場では相澤グループ会長の喜寿の誕生パーティーが催されている。政財界、芸能界、相澤グループ関連企業の役員など、様々な人間達の交わす華やかな会話や雰囲気に莉央は萎縮していた。

 彼女はテーブルに並ぶ飲み物の中から青色の液体の入るグラスを手にしたが、そのグラスを俊哉が横から取り上げた。

『それは酒。お前はこっち』

烏龍茶と思われるグラスを渡された莉央は頬を膨らませて俊哉を睨んだ。

「パーティーなんだから少しくらい……」
『ダーメ』

莉央から取り上げたグラスに俊哉が口をつける。青色の液体は甘いカクテルだ。

「あの旅行の時には私にお酒飲ませたじゃない」
『あれは俺と二人の時だったから。でも今はダメ。酔った可愛い莉央は誰にも見せたくねぇの』

 俊哉は白いワンピース姿の莉央を見下ろした。莉央が着ているのはエンパイアタイプのワンピース。

レースのパフスリーブから覗く細い二の腕、ふわりと広がる裾からは膝が見え隠れしている。雅子が見繕ったわりには、このワンピースは莉央によく似合っていた。

 莉央の長い黒髪は美容師の手でアップヘアにされている。メイクもしていた。
今日のパーティーで莉央を婚約者と引き合わせるために雅子も莉央の見栄えを気にしたのかもしれない。

 着飾らなくても莉央は元が良いから十二分に美しいが、今の莉央はこのパーティー会場にいる誰よりも目立っていた。

どれだけメイクやドレスで着飾った貴婦人も莉央の美しさには敵わない。先ほどから莉央をちらちらと見ていく男達の視線が俊哉は気になっていた。

パーティー会場に着いた時から莉央には自分から離れないようにと命じていた。俊哉が莉央の側を離れたら、男達が一斉に莉央のもとに押し寄せるだろう。
そんな時に莉央が酒に酔っていては余計に男の情欲を煽る。

「そういうのシスコンって言うんだよ」
『じゃあ莉央はファザコンとブラコンな』

 立食形式のパーティー会場で壁にもたれて言葉を交わす俊哉と莉央は、ここでは兄と妹でいなければならない。

 俊哉のところに別会社の重役が挨拶に来た。俊哉が莉央を妹として紹介し、莉央も重役の男二人に挨拶する。

こういった場に馴れている俊哉は名刺交換や握手もスムーズにこなし、莉央のわからないビジネスの話を相手と展開していく。

(仕事の話をしている時の俊哉お兄さんはとっても大人に感じる。私がここにいるのは場違いじゃないの?)

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