早河シリーズ第三幕【堕天使】
人の群れを掻き分けて雅子が歩いてくる。俊哉と話をする重役達に雅子は丁寧にお辞儀をして莉央と俊哉の間に入った。
「莉央、あなたに会わせたい人がいるの。私と一緒にいらっしゃい」
雅子と俊哉がアイコンタクトを交わしている。莉央は俊哉を見たが彼は莉央から目をそらして重役達とパーティー会場の人混みに消えた。
これまで片時も莉央の側を離れなかった俊哉が雅子の登場であっさり彼女の側を離れた。
莉央は不安げに雅子の後ろをついていく。会場の隅で雅子の付き人から大きな花束を渡された。
「これを持って相澤会長にご挨拶なさい。失礼のないようにね」
「はい」
花束を抱えて莉央は喜寿を迎えた本日の主賓、相澤会長に歩み寄った。多くの人間の輪の中心にいる老紳士が莉央を手招きする。
『おお、莉央ちゃん。待っていたよ』
「相澤のお爺様、お誕生日おめでとうございます」
『ありがとう。久しく見ない間にまた綺麗になったねぇ』
目尻を下げて花束を受け取った相澤会長の隣には二人の若い男がいる。ブラックスーツを纏ったスラリとした男と学生服姿の少年だ。
『莉央ちゃん、私の孫達だ』
『はじめまして。相澤直輝です。お会いできるのを楽しみにしていました』
「はじめまして。莉央です」
莉央は相澤会長の二人の孫とおずおずと握手をかわす。ブラックスーツの男はスマートに、学生服姿の少年は莉央の手を握ると頬を赤らめていた。少年は莉央と同じ年くらいだ。
それを見ていた雅子が莉央の肩に手を置く。
「莉央。直輝さんはフランスの芸術大学に留学されていたのよ。彫刻をお造りになったり建築のデザインをされたり。建築のデザインではフランスのコンテストで賞を受賞されたこともあるのよ」
『まだまだ駆け出しですが、一応建築デザイナーとして職に就いています』
相澤直輝はスーツの懐から名刺を出して莉央に渡した。受け取った名刺には相澤直輝を代表とした建築デザインの事務所の住所も記載されている。
いつの間にか相澤の弟の姿は見えなくなり、莉央の周りには相澤直輝と相澤会長、雅子だけが残っている。
莉央は直輝が語るフランス留学の話を楽しそうに聞く雅子を盗み見た。
(雅子さんは私を相澤会長の孫に会わせて何を考えているの?)
話の合間に会場を見渡して俊哉の姿を捜したけれど、この人の波では彼の姿を見つけることはできなかった。
「莉央、あなたに会わせたい人がいるの。私と一緒にいらっしゃい」
雅子と俊哉がアイコンタクトを交わしている。莉央は俊哉を見たが彼は莉央から目をそらして重役達とパーティー会場の人混みに消えた。
これまで片時も莉央の側を離れなかった俊哉が雅子の登場であっさり彼女の側を離れた。
莉央は不安げに雅子の後ろをついていく。会場の隅で雅子の付き人から大きな花束を渡された。
「これを持って相澤会長にご挨拶なさい。失礼のないようにね」
「はい」
花束を抱えて莉央は喜寿を迎えた本日の主賓、相澤会長に歩み寄った。多くの人間の輪の中心にいる老紳士が莉央を手招きする。
『おお、莉央ちゃん。待っていたよ』
「相澤のお爺様、お誕生日おめでとうございます」
『ありがとう。久しく見ない間にまた綺麗になったねぇ』
目尻を下げて花束を受け取った相澤会長の隣には二人の若い男がいる。ブラックスーツを纏ったスラリとした男と学生服姿の少年だ。
『莉央ちゃん、私の孫達だ』
『はじめまして。相澤直輝です。お会いできるのを楽しみにしていました』
「はじめまして。莉央です」
莉央は相澤会長の二人の孫とおずおずと握手をかわす。ブラックスーツの男はスマートに、学生服姿の少年は莉央の手を握ると頬を赤らめていた。少年は莉央と同じ年くらいだ。
それを見ていた雅子が莉央の肩に手を置く。
「莉央。直輝さんはフランスの芸術大学に留学されていたのよ。彫刻をお造りになったり建築のデザインをされたり。建築のデザインではフランスのコンテストで賞を受賞されたこともあるのよ」
『まだまだ駆け出しですが、一応建築デザイナーとして職に就いています』
相澤直輝はスーツの懐から名刺を出して莉央に渡した。受け取った名刺には相澤直輝を代表とした建築デザインの事務所の住所も記載されている。
いつの間にか相澤の弟の姿は見えなくなり、莉央の周りには相澤直輝と相澤会長、雅子だけが残っている。
莉央は直輝が語るフランス留学の話を楽しそうに聞く雅子を盗み見た。
(雅子さんは私を相澤会長の孫に会わせて何を考えているの?)
話の合間に会場を見渡して俊哉の姿を捜したけれど、この人の波では彼の姿を見つけることはできなかった。