性別を隠して警備隊に入ったのがバレたら、女嫌いの総隊長の偽恋人になりました。
警備隊モード発動
今は辞めたとはいえ、クリスは警備隊員として勤めていた身。ヒューゴにいたっては現役の総隊長だ。二人とも助けを求める声が聞こえたとたん、すぐに声の主を探す。
声をあげていたのは、こちらに向かって走ってくる中年の男。その少し先を、鞄を持った若い男が走っていた。
どうやら若い男が中年の鞄を引ったくったようだ。
「クリス、下がってろ」
「いえ、私もやります」
捕まえるなら、一人より二人の方がいい。
ヒューゴも異論はないのだろう。一言「頼むぞ」と呟くと、二人して若い男に向かって駆け出した。
「ちっ!」
真っ直ぐに向かってくる二人を見て状況を察したのだろう。男はすぐさま向きを変え、脇にある狭い路地へと入っていく。
「待てっ!」
幸い、男よりもヒューゴやクリスの方が足が速く、少しずつその距離は縮まっていく。
だがあと少しのところまで迫った時だ。急に男が足を止め、ニヤリと笑いながらこちらを振り返る。
「観念したというわけではなさそうだな。一応言っておくが、大人しく捕まれば手荒なことはしないでおくぞ」
ヒューゴが忠告するが、男にその気はなさそうだ。
「誰が捕まるかよ。観念するのはお前達の方だ」
するとその言葉に応えるように、辺りから柄の悪そうな奴らがぞろぞろ出てきた。
「こいつの仲間のようですね」
「ああ。追われたらここに誘い込んで、返り討ちにするつもりだったようだな」
「そういうことだ。残念だったな」
数で勝っていることで、勝利を確信しているのだろう。男達は二人を囲みながら、ニタニタと下卑た笑みを浮かべている。
しかしそこには誤算があった。確かに数の上では不利。だがヒューゴもクリスも、それで臆したりはしない。
まずは一人が、ヒューゴに殴りかかってくる。だがヒューゴは簡単にそれをかわすと、逆にその男を殴り飛ばした。
「がっ……てめえ!」
それを見て、ようやく男達にも危機感が出てきたようだ。それぞれ身構え、中にはナイフを取り出す奴もいた。
対するヒューゴも、護身用に持っていた短刀を抜く。一方クリスは丸腰のままだが、彼女が得意なのは素手による格闘戦だ。
だがそんなことを知らない相手は、丸腰の女と見て侮ったのだろう。一人が力ずくで押さえつけようと飛びかかってくる。
それが間違いだった。
「ぐぁっ!」
クリスより二回りは大きな体が、クルリと一回転して地面に叩きつけられる。
うめき声をあげながら仰向けになったところで、鳩尾にさらなる一撃を見舞う。
それだけで、男はもう動けなくなってしまった。
「警備隊を辞めて一月。腕は鈍っていないようだな」
「ええ。実はダンスの練習の合間にも、気分転換に武術は続けていたんです」
もう役立つことはないかもしれないと思っていたが、意外と早く出番がきたものだ。
それから二人は、本格的にごろつき達に向かっていく。
もちろん、まだまだ数は相手の方が圧倒的に多い。だが二人は、次々とそれを打ち倒していった。
ごろつき達もそれなりに喧嘩慣しているようだが、警備隊で訓練を重ねた二人には敵わない。
個人的な強さだけではない。ヒューゴもクリスも、どれだけ強くても一人の人間だ。不意を突かれれば、そこから一気に崩れることだってあり得る。
だからそんなことにならないよう、互いに庇い合い、連携しながら戦っている。
「ちくしょう。なんなんだお前ら!」
こんなことになるとは思ってなかったのだろう。
もはや立っている男達はわずか。しかもそのほとんどが逃げ腰になっている。
そんな中、一人だけ例外がいた。
「うわぁぁぁっ!」
「くっ!」
クリスのすぐ近くをナイフがかすめる。幸い当たることはなかったが、今のは少し危なかった。
どうやらごろつき達の中でも、こいつが一番強いようだ。
だがそれ以上にクリスが気になったのは、彼の尋常ならざる様子だった。
「がぁぁぁぁっ!」
言葉にならない雄叫びをあげながら、次々と攻撃を仕掛けてくる。その目は真っ赤に血走っていて、今が戦闘中というのを考えても異常だ。
「恐らく薬物でもやっているんだろうな。クリス、あいつは俺がやるから、お前は他の奴らを頼む」
「わかりました!」
ヒューゴも、少々手強い相手と思ったのだろう。合図ひとつで、それぞれ戦う相手を変更する。
クリスが戦うのは、残った二人の男。相手にする数はこっちの方が多いが、この二人は既に戦意を失いつつある。こうなってしまったら、本気で向かってくる時の半分の強さもない。
実際、クリスが飛びかかると、一人は実にあっさりとやられた。残る一人はそれを見て逃げようとしたが、すぐに追いかけ、その背中に飛び蹴りを食らわせる。それで終わりだ。
これで残るは、ヒューゴが戦っている一人だけになった。
声をあげていたのは、こちらに向かって走ってくる中年の男。その少し先を、鞄を持った若い男が走っていた。
どうやら若い男が中年の鞄を引ったくったようだ。
「クリス、下がってろ」
「いえ、私もやります」
捕まえるなら、一人より二人の方がいい。
ヒューゴも異論はないのだろう。一言「頼むぞ」と呟くと、二人して若い男に向かって駆け出した。
「ちっ!」
真っ直ぐに向かってくる二人を見て状況を察したのだろう。男はすぐさま向きを変え、脇にある狭い路地へと入っていく。
「待てっ!」
幸い、男よりもヒューゴやクリスの方が足が速く、少しずつその距離は縮まっていく。
だがあと少しのところまで迫った時だ。急に男が足を止め、ニヤリと笑いながらこちらを振り返る。
「観念したというわけではなさそうだな。一応言っておくが、大人しく捕まれば手荒なことはしないでおくぞ」
ヒューゴが忠告するが、男にその気はなさそうだ。
「誰が捕まるかよ。観念するのはお前達の方だ」
するとその言葉に応えるように、辺りから柄の悪そうな奴らがぞろぞろ出てきた。
「こいつの仲間のようですね」
「ああ。追われたらここに誘い込んで、返り討ちにするつもりだったようだな」
「そういうことだ。残念だったな」
数で勝っていることで、勝利を確信しているのだろう。男達は二人を囲みながら、ニタニタと下卑た笑みを浮かべている。
しかしそこには誤算があった。確かに数の上では不利。だがヒューゴもクリスも、それで臆したりはしない。
まずは一人が、ヒューゴに殴りかかってくる。だがヒューゴは簡単にそれをかわすと、逆にその男を殴り飛ばした。
「がっ……てめえ!」
それを見て、ようやく男達にも危機感が出てきたようだ。それぞれ身構え、中にはナイフを取り出す奴もいた。
対するヒューゴも、護身用に持っていた短刀を抜く。一方クリスは丸腰のままだが、彼女が得意なのは素手による格闘戦だ。
だがそんなことを知らない相手は、丸腰の女と見て侮ったのだろう。一人が力ずくで押さえつけようと飛びかかってくる。
それが間違いだった。
「ぐぁっ!」
クリスより二回りは大きな体が、クルリと一回転して地面に叩きつけられる。
うめき声をあげながら仰向けになったところで、鳩尾にさらなる一撃を見舞う。
それだけで、男はもう動けなくなってしまった。
「警備隊を辞めて一月。腕は鈍っていないようだな」
「ええ。実はダンスの練習の合間にも、気分転換に武術は続けていたんです」
もう役立つことはないかもしれないと思っていたが、意外と早く出番がきたものだ。
それから二人は、本格的にごろつき達に向かっていく。
もちろん、まだまだ数は相手の方が圧倒的に多い。だが二人は、次々とそれを打ち倒していった。
ごろつき達もそれなりに喧嘩慣しているようだが、警備隊で訓練を重ねた二人には敵わない。
個人的な強さだけではない。ヒューゴもクリスも、どれだけ強くても一人の人間だ。不意を突かれれば、そこから一気に崩れることだってあり得る。
だからそんなことにならないよう、互いに庇い合い、連携しながら戦っている。
「ちくしょう。なんなんだお前ら!」
こんなことになるとは思ってなかったのだろう。
もはや立っている男達はわずか。しかもそのほとんどが逃げ腰になっている。
そんな中、一人だけ例外がいた。
「うわぁぁぁっ!」
「くっ!」
クリスのすぐ近くをナイフがかすめる。幸い当たることはなかったが、今のは少し危なかった。
どうやらごろつき達の中でも、こいつが一番強いようだ。
だがそれ以上にクリスが気になったのは、彼の尋常ならざる様子だった。
「がぁぁぁぁっ!」
言葉にならない雄叫びをあげながら、次々と攻撃を仕掛けてくる。その目は真っ赤に血走っていて、今が戦闘中というのを考えても異常だ。
「恐らく薬物でもやっているんだろうな。クリス、あいつは俺がやるから、お前は他の奴らを頼む」
「わかりました!」
ヒューゴも、少々手強い相手と思ったのだろう。合図ひとつで、それぞれ戦う相手を変更する。
クリスが戦うのは、残った二人の男。相手にする数はこっちの方が多いが、この二人は既に戦意を失いつつある。こうなってしまったら、本気で向かってくる時の半分の強さもない。
実際、クリスが飛びかかると、一人は実にあっさりとやられた。残る一人はそれを見て逃げようとしたが、すぐに追いかけ、その背中に飛び蹴りを食らわせる。それで終わりだ。
これで残るは、ヒューゴが戦っている一人だけになった。