性別を隠して警備隊に入ったのがバレたら、女嫌いの総隊長の偽恋人になりました。
バレた!
「うわぁぁぁぁぁん!」
水浴び場に、クリスの叫びがこだまする。ちなみに、服は着ている。さらに言うと、今この場にヒューゴはいなかった。
あれから、ヒューゴは崩れ落ちるように膝をついた。
そして数秒の沈黙の後、決してこちらを見ることなく、告げる。
「クリス。あとで総隊長室に来い」
それだけを言い残すと、素早く着替えをすませ、ふらふらとした足取りで去っていった。
クリスは何も答えなかった。答える余裕などなかった。
噴火したように火照った体を抱きしめながら、無言のまま立ち尽くすことしかできなかった。
それから震える手で服を取り、半泣き状態で着替えを終えたところで、ようやく声を出す。それが、先ほど響いていた叫び声だ。
「見られた、見られた、見られたーーーっ!」
クリスが入隊してから、すなわち男と偽り生活するようになってから、早半年。しかし、心まで男になったわけじゃない。
異性にあられもない格好を見られたら、それを恥ずかしがるくらいの羞恥心は、今もちゃんと持ち合わせている。
「このまま消えてなくなりたい」
涙混じりに呟くが、そういうわけにもいかない。なにしろヒューゴから、隊長室に来るようにと言われている。
水浴び場を出て、重い足取りで本舎へと入る。
そうしてやって来た隊長室。その扉を、恐る恐る開いた。
「あの……ヒューゴ総隊長。ただいま参りました」
ヒューゴは机に向かい、いくつもの書類と向き合っていた。盗賊団との一件に対する事後処理をしなければならないと言っていたが、これがそうなのだろう。
「お、お忙しいなら、また改めて出直しましょうか?」
「必要ない。仕事なんぞ、まるで手がつかん」
ピシャリと放たれた声が、扉を閉めようとするクリスの手を止める。
そしてヒューゴはペンを置くと、鋭い目でクリスを見た。これは、怒っている時の目だ。
「そ、そういえば総隊長。どうして水浴び場なんかにいたんですか?」
少しでも場の空気を和らげようと、どうでもいい話をふってみる。しかし、それは逆効果だった。
「お前も知っての通り、女に手を握られたせいで気分が悪くなり、風に当たっていた。それから、水でもかぶればもう少しスッキリするかと思い行ってみた」
「そ、それは大変でしたね」
「ああ。俺は女は苦手だからな。そう、女はな」
女という言葉を強調しながら、ヒューゴの目がいっそう鋭くなる。
「本題に入るぞ。そうして俺は水浴び場に行き、お前と鉢合わせしたわけだが、その時見たお前の姿は、どうにも妙だった」
「と言いますと……?」
無駄だと思いつつ、往生際悪くとぼけてみせる。もちろん、そんなものは何の効果もなかった。
「お前は一切何も身につけなかったわけだが、胸がわずかながらに膨らんでいた……ような気がする。さらに、下には何もついて……」
「きゃぁぁぁぁっ! 思い出さないでください!」
改めて、恥ずかしい部分をしっかり見られたのだと突きつけられ、崩れ落ちそうになる。
(さ、最悪だ)
しかしこれは、単に恥ずかしいだけで終わる話ではない。
「その反応。やはり見間違いではなかったみたいだな。一応、確認をしておく。クリス、お前の性別はなんだ?」
「………………女です」
長い沈黙の末、クリスはか細い声で答える。
今さらごまかすのは無理とわかっていたが、それでも認めるのは、やはり苦しかった。
「……できれば、見間違いであってほしかった」
ヒューゴはヒューゴで、頭を抱えながらため息をつく。
無理もない。半年間男だと思っていた部下が実は女だったなど、想像もしていなかっただろう。
「さっきお前の入隊書類を確認したが、性別は男と書かれていたぞ。当然だな。うちは男しか入隊を認めていない。これはどういうことだ?」
「にゅっ、入隊時に、嘘をつきました。本名は、クリストファー=クロスではなく、クリスティーナ=クロスです」
「ほう、名前も偽っていたのか。まあ、性別に比べれば些細なことだな」
「そ、そうですね……」
「なぜ、こんなことをした?」
「そ、それは……」
クリスは生きた心地がしなかった。警備隊に性別を偽って入るというのは、どれくらいの罪なのだろう。
しかし、ここで上手く言い訳をする頭も度胸もない。
結局、以前の仕事と住む場所がなくなったこと。新しい仕事先が見つからなかったこと。その結果、男装して入隊するという方法を思いついたこと。全てを正直に話すしかなかった。。
「…………なるほど。そういう事情があったというわけか」
「はい。仕方のない、やむにやまれぬ事情があったのです」
話し終えた後に、こうする以外なかったのだというのを強調する。しかし、次のヒューゴの言葉は無慈悲なものだった。
「なるほど、わかった。それでは、今すぐ隊を出ていけ」
水浴び場に、クリスの叫びがこだまする。ちなみに、服は着ている。さらに言うと、今この場にヒューゴはいなかった。
あれから、ヒューゴは崩れ落ちるように膝をついた。
そして数秒の沈黙の後、決してこちらを見ることなく、告げる。
「クリス。あとで総隊長室に来い」
それだけを言い残すと、素早く着替えをすませ、ふらふらとした足取りで去っていった。
クリスは何も答えなかった。答える余裕などなかった。
噴火したように火照った体を抱きしめながら、無言のまま立ち尽くすことしかできなかった。
それから震える手で服を取り、半泣き状態で着替えを終えたところで、ようやく声を出す。それが、先ほど響いていた叫び声だ。
「見られた、見られた、見られたーーーっ!」
クリスが入隊してから、すなわち男と偽り生活するようになってから、早半年。しかし、心まで男になったわけじゃない。
異性にあられもない格好を見られたら、それを恥ずかしがるくらいの羞恥心は、今もちゃんと持ち合わせている。
「このまま消えてなくなりたい」
涙混じりに呟くが、そういうわけにもいかない。なにしろヒューゴから、隊長室に来るようにと言われている。
水浴び場を出て、重い足取りで本舎へと入る。
そうしてやって来た隊長室。その扉を、恐る恐る開いた。
「あの……ヒューゴ総隊長。ただいま参りました」
ヒューゴは机に向かい、いくつもの書類と向き合っていた。盗賊団との一件に対する事後処理をしなければならないと言っていたが、これがそうなのだろう。
「お、お忙しいなら、また改めて出直しましょうか?」
「必要ない。仕事なんぞ、まるで手がつかん」
ピシャリと放たれた声が、扉を閉めようとするクリスの手を止める。
そしてヒューゴはペンを置くと、鋭い目でクリスを見た。これは、怒っている時の目だ。
「そ、そういえば総隊長。どうして水浴び場なんかにいたんですか?」
少しでも場の空気を和らげようと、どうでもいい話をふってみる。しかし、それは逆効果だった。
「お前も知っての通り、女に手を握られたせいで気分が悪くなり、風に当たっていた。それから、水でもかぶればもう少しスッキリするかと思い行ってみた」
「そ、それは大変でしたね」
「ああ。俺は女は苦手だからな。そう、女はな」
女という言葉を強調しながら、ヒューゴの目がいっそう鋭くなる。
「本題に入るぞ。そうして俺は水浴び場に行き、お前と鉢合わせしたわけだが、その時見たお前の姿は、どうにも妙だった」
「と言いますと……?」
無駄だと思いつつ、往生際悪くとぼけてみせる。もちろん、そんなものは何の効果もなかった。
「お前は一切何も身につけなかったわけだが、胸がわずかながらに膨らんでいた……ような気がする。さらに、下には何もついて……」
「きゃぁぁぁぁっ! 思い出さないでください!」
改めて、恥ずかしい部分をしっかり見られたのだと突きつけられ、崩れ落ちそうになる。
(さ、最悪だ)
しかしこれは、単に恥ずかしいだけで終わる話ではない。
「その反応。やはり見間違いではなかったみたいだな。一応、確認をしておく。クリス、お前の性別はなんだ?」
「………………女です」
長い沈黙の末、クリスはか細い声で答える。
今さらごまかすのは無理とわかっていたが、それでも認めるのは、やはり苦しかった。
「……できれば、見間違いであってほしかった」
ヒューゴはヒューゴで、頭を抱えながらため息をつく。
無理もない。半年間男だと思っていた部下が実は女だったなど、想像もしていなかっただろう。
「さっきお前の入隊書類を確認したが、性別は男と書かれていたぞ。当然だな。うちは男しか入隊を認めていない。これはどういうことだ?」
「にゅっ、入隊時に、嘘をつきました。本名は、クリストファー=クロスではなく、クリスティーナ=クロスです」
「ほう、名前も偽っていたのか。まあ、性別に比べれば些細なことだな」
「そ、そうですね……」
「なぜ、こんなことをした?」
「そ、それは……」
クリスは生きた心地がしなかった。警備隊に性別を偽って入るというのは、どれくらいの罪なのだろう。
しかし、ここで上手く言い訳をする頭も度胸もない。
結局、以前の仕事と住む場所がなくなったこと。新しい仕事先が見つからなかったこと。その結果、男装して入隊するという方法を思いついたこと。全てを正直に話すしかなかった。。
「…………なるほど。そういう事情があったというわけか」
「はい。仕方のない、やむにやまれぬ事情があったのです」
話し終えた後に、こうする以外なかったのだというのを強調する。しかし、次のヒューゴの言葉は無慈悲なものだった。
「なるほど、わかった。それでは、今すぐ隊を出ていけ」