愛してはいけないというあなたと

一筋の光

 まだ冷たい風が頬を撫でて遊んでいく、あるよく晴れた日のこと。
艶子は美和から注文された菓子や飲み物を買いに急ぎ足でコンビニに向かっていた。

 途中、キャンバスバッグを肩に掛けた女子大生らしき集団が前から歩いてくるので、端に避ける。
彼女たちは、何も悩みはないという顔をして、楽しそうにお喋りをしながら横を通り過ぎていく。
艶子は父が亡くなってから、大学に行けていない。
おそらく既に退学処理をされているのだろう。
父が生きていたら、今頃彼女たちのように艶子も何の憂いもなく過ごせていたのに。

 ――羨ましい。
あの頃は当たり前だと思っていた幸せ。
もう二度と、艶子が手にすることはできない。

 このまま自分は叔母と美和に虐げられて生きていくのだろうか。
叔父も妙な視線を送ってくるだけで、助けてはくれない。
一体自分が何をしたというのか。
このまま自分も父のところにいってしまいたい……。

 悲観する心が加速していく。
しばらくその場に立ち竦んでいると、「大丈夫かい?」と声を掛けられた。
それは大人の低い男性の声だった。
ハッと顔を上げると、目の前に見知らぬ男が立っている。

「何か嫌なことでも?」

 そう言われて、自分が泣いていることに気が付く。
慌てて頬につたう涙を手の甲で拭おうとすると、彼が皺のない紺色のハンカチを差し出した。

「よかったらこれを使って」

「……え、あ、ありがとうございます」

 最近では、親切にされることがない。
見知らぬ相手だというのに、受け取ってしまう。
気遣われたことが嬉しくて、苦しくて、さらに涙が次々と溢れていく。

 艶子の悲観な空気に巻き込まれ、彼に迷惑をかけていることを申し訳なく思い「すみません……」と謝ると、男が驚くことを口にした。

「大丈夫。実は今日、俺は君に会いに来たんだから」

「……え?」

 意味がわからず目を丸くすると、男は「少し時間をもらえるかな?」と口元に笑みを作った。
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