愛してはいけないというあなたと
 結婚とは、愛し合う者同士が永遠の愛を誓い、法律上で結ばれることではないのか。
艶子の認識では少なくともそう。

「あの、もう一度仰ってくださいますか?」

 聞き間違いかもしれないと思い、確認する。

「僕と結婚しようと言ったんだ」

「……何を仰って……」

 信じられない思いで広渡を見つめるも、彼の目は真剣で嘘を吐いているようにはみえない。
しかし、なぜ艶子と結婚なんて思ったのか。

「プロポーズしてるんだよ、君に」

「プロポーズって……私たちは今日お会いしたばかりで……そもそもあなたのことは何も存じ上げません」

「自己紹介はしたけどな」

 確かに名前は教えてもらったが、それだけ。
他のことは何も知らない上、何より二人の間に愛はない。

「安心して、本当に怪しい者じゃない。今は会社の役員をしていてそこそこ収入はある。勿論後ろめたい仕事じゃないよ。もし僕と結婚したら、あの家を取り戻してあげるよ」

「取り戻すって叔父からですか?」

 広渡はコクコクと頷く。

「そう、彼らからあの家も君のお父さんの守ってきたデパートも。それから君を彼らとさよならさせてあげる」

 艶子は唾をゴクッと飲んだ。
あの家を取り戻せる。
叔母たちから解放される。

 今の艶子にとっては、すぐに頷きたくなる提案だ。
しかし、そんな美味しい話があるだろうか。
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