愛してはいけないというあなたと
 もしかすると今よりひどい目に遭うかもしれない。
今は家の仕事をすべて押し付けられているが、叔父が手を出すことは許さないと暴力は受けていない。
しかし、彼と結婚してしまえば、その可能性だってないとはいえないのだ。

「彼らから解放されたくないの?」

 優しい目で誘惑する広渡。
艶子は引きずられないようにと、一旦視線を逸らす。

「叔母たちからは解放されたいです。でも、あなたのことをまったく存じ上げないですし、もし結婚となってもあなたにメリットはないはずです」

 さすがに暴行される恐れがあるとは言えない。
だが艶子の心はバレバレだったようだ。

「彼らより絶対に大切にすると誓うよ。君に危害は加える気はない。不安だと思うからきちんと弁護士に契約書を依頼するよ。それにね、僕は君に一目惚れしたんだ」

 以前の艶子であれば、信じられた。
だが、今の艶子に魅力を感じる者なんていないことは理解している。

 自慢だった艶のあるストレートの髪はパサついていて、それを隠すように後ろで一つに結んでいる。
滑らかだった肌は化粧品も与えられず、乾燥しごわついている。
栄養のあるものを取れないので痩せてしまったし、何より表情が暗くなってしまった。
えくぼのみえる笑顔が可愛いと愛されていた艶子はもうどこにもいないのだ。

「本当のことを仰ってください」

 艶子がニコリともせず言うと、広渡は小さなため息を吐く。
それから困ったように言った。
「君との結婚はちょうどいいんだ」と。
< 18 / 30 >

この作品をシェア

pagetop