愛してはいけないというあなたと

　艶子が家に戻ると、美和がすごい剣幕で玄関までやってきて、頬を叩いてきた。
この家に叔母が来た時に一度だけ叩かれたことはあるものの、それ以来はなかったので驚愕してしまう。
叩かれた頬が痛い。
体の大きな美和からの衝撃に、口の中が切れ、血の味がする。

「あんた、買い物に何分かかってるのよ！」

　怒られるに違いないとは思っていた。
しかし、ここまでとは想像もしていない。

「申し訳ございません……」

　広渡と別れてから急いで依頼された物を購入したが、遅すぎた。
家を出てから二時間程経過している。

「何してたのよ！」

「途中、気分が悪くなりまして、公園で休んでおりました。大変申し訳ございません」

　本当のことは絶対に言えない。
嘘を言うしかないが、バレたらどうしようと震えてしまう。

　しかし、嘘くさい言い訳については、美和には艶子が不器用な性質にみえるようで、それ以上追求されることはなかった。
代わりに遅くなったことには、ネチネチと嫌味ったらしく文句を言い、途中からなぜか叔母まで参戦し、二人から𠮟責されることに。
叔父が帰宅したことでそれは一旦止んだものの、些細な粗を見つけては艶子を罵倒した。


　
　心がひどく疲れた。
今日、広渡に会ったことで、愛されていた自分を思い出したせいもあるだろう。
地下室で一人になった艶子は、渡されたスマホをじっと見つめ、今後のことを考える。

　このままここであの二人に虐められて終わるのか――。
そんなの嫌、嫌に決まっている。

　だが、広渡を信じていいのか――。
それもよくわからない。

　艶子が頭悩ませていると、なぜか地下室の扉が開く。
誰……？
不審に思うもすぐに、叔父が入ってきたのがわかり、慌ててスマホを寝袋に隠した。