愛してはいけないというあなたと

名だけの妻

 ――お願い、出て……!

「はい」

 艶子の願い通り、深夜であるにもかかわらず相手はすぐに電話に出た。

「助けて!お願い助けて!」

 艶子はとにかく叫ぶようにそう言って、広渡に助けを求めた。

 いつ叔父に捕まるかわからない。
怖くて怖くてたまらず、無言の相手に「お願い助けて……」と繰り返すと、目の前に一台の車が停まる。

 真っ白な外国車。
夜目なので、白のセダン車は叔父のものに見えた。
まさか叔父が手を回したのだろうか。
怖くなった艶子は、再び自宅の方へ体を向けて走り出そうとする。

 しかし、「そっちに行ったらお家の人に捕まってしまうよ」という声に足を止めた。

 その声は、艶子が助けてを求めていた広渡のものだったから。
ハッとして振り返ると、運転席の窓から広渡の顔が見え、艶子は安堵からその場に座り込んでしまう。

 広渡は車から降りて、「大丈夫?」と、艶子の前に屈み、顔を覗き込んできた。
反射的に彼の腕を握り、首を左右に大きく振る艶子。

「助けてください。お願い、私をあの家から連れ出して!」

「それは、僕と結婚するということで間違いない?」

 この時の艶子は、叔父から逃れられるのなら、もうどうだってよかった。
何度もコクコクと頷いて、「お願い助けて……」と言う。

「わかった。君の願いを叶えるよ」

 広渡は魅惑的な笑みを浮かべると、艶子の体を抱きかかえた。
突然体がふわりと浮き、心許なく彼の首に手を回す。

「軽すぎるね、可哀想に。これからは君にたっぷり好きなものを食べさせてあげよう」

 彼はそう言い艶子の頭にキスをすると、彼女を助手席に乗せた。

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