愛してはいけないというあなたと
 艶子は一番にクラムチャウダーを口にした。
体が温かいものを欲していたから。

「美味しい……」

 ゆっくりと食事を取ることができなかったので、胸が温かくなる。

「それはよかった。クラムチャウダーは栄養が取れていいね。君は痩せ過ぎだからたくさん食べなさい」

 艶子はありがとうございますと言い、もう一口口に入れた。
昔の自分であれば、誰の指示も受けることなく好きなものを好きに食べられていたというのに、恐縮してしまう。
長期間、叔父家族の顔色を窺ってきたので、広渡に対してもそうだった。
もう前の艶子のようにはいかない。

「そうそう、君の大学だけど、通えていない期間は休学扱いにしたよ。君次第でまた通うこともできるが、どうするかい?」

「……大学にまた通えるのですか?」

 大学については退学をさせられたのだとばかり思っていたので、目をパチクリして広渡を見つめた。

「原級に留めることになるけど、それでよければ通うといいよ」

 それは構わない。
叔父家族と過ごしたことで、以前の恵まれた生活のありがたさを知った今、普通の女子大生に戻りたいと願っていたのだ。

「留年することは構いません。ですが、私は突然大学に行かせてもらえなくなりました。それについては、どのようになっているのですか……?」

 叔父家族に支配されてから、スマホを取り上げられたこともあり、艶子は友人の誰とも連絡を取っていない。
きっと不思議に思われているに違いない。
艶子の状況を知られていて、変に気を遣われるのは嫌だった。

「君はお父さんのことのショックから、体を壊したことになっている。誰もあの家での君のことは知らないよ。安心しなさい」

「……そうなのですね、ありがとうございます」

 艶子は、広渡の親切心に感謝して、ホロリと涙を流した。
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