愛してはいけないというあなたと
 それから叔父は二つ選択肢を与えた。

 一つは、このまま身一つでこの家を出て行くこと。

 二つ目は、このまま家に残り家政婦として叔父家に仕えること。

 艶子は何も力を持たない頼りない身。
後者を選ぶしかなかった。

 ここに身を置かせてもらうことに、頭を下げろと命令された艶子は、生まれて初めて土下座の姿勢で懇願した。
それを見た叔母は、ざまぁみろと言わんばかりに意地悪く笑う。

 叔母からすると、艶子は邪魔な存在でしかない。
彼女の母親にそっくりな艶子に、嫌悪感を抱いていたのだ。


 艶子の叔母の洋子(ようこ)は、艶子の母親の優子(ゆうこ)と、隣同士に住む幼馴染みだった。
幼い頃は、洋子より一つ年下の優子のことを妹のように思っていた洋子。
優子が人見知りする性格だったので、自ら甲斐甲斐しく世話を焼いていた。

 しかし二人が成長するにつれ、その関係は変わっていく。

 優子が大変美しく育ち、周囲の彼女へ向ける目が明らかに変わってきたからだ。
これまで洋子の後ろに隠れていた優子は、周囲の優しさに触れることで、明るくのびのびとした人格に形成されていく。
反して洋子はと言うと、不美人ではないが、かといって美しくはなかった。
誰が比べるなどないのに、自身が優子と比較することが多くなり、卑屈な性格になっていく。

 洋子は徐々に優子と距離を置き始めるが、最悪なことに同じ男を好きになってしまった。
相手は艶子の父親となる勇一(ゆういち)

 大学が同じだった洋子と優子。
洋子は同じ大学で一つ年上の勇一のことを密かに想っていたのだが、なんと優子が入学してきたた年に、彼は彼女と付き合い始めた。
間接的だが失恋してしまった洋子。
同じくして失恋をした者がもう一人いた。
それは、洋子の今の夫である浩二(こうじ)だった。
< 7 / 30 >

この作品をシェア

pagetop