愛してはいけないというあなたと
 洋子の想い人の勇一は、大学で一際目立つ存在だった。
長身でスタイルがよく、美しい顔立ちでいながらも、明るく誰にでも親切で、常に周囲に人だかりができていた。

 弟の浩二はというと、顔立ちこそ勇一に似ているが、中肉中背で兄弟と思えぬほど陰気な雰囲気の男だった。
大体一人で本を読んでいて、孤立している。

 浩二は洋子と同級生で、同じ講義を取っていたことで時々話をする仲になるが、あまり口数の多くない彼と話が弾むことはなかった。

 そんなある日、浩二がある女子生徒を見つめていることに気が付く。
優子だった。

 美しくいつもニコニコと笑っている優子。
浩二の視線の先にはいつも優子がいた。

 次第に、洋子の視線の先も同じ場所となる。
優子が勇一と付き合い始めたことで。

 二人の失恋は同時だった。
フラれたもの同士、どちらからともなく付き合いはじめ、結婚し今になる。

 優子への嫉妬心は、結婚してからも変わらなかった。
彼女がこの世からいなくなってからも、メラメラと燃えているように消えない。

 洋子は艶子が憎かった。
憎くてたまらなかった。

 だが、浩二は違う。
浩二は、優子そっくりの艶子をひどく扱えないに違いない。
彼女を庇ったのもそのせい。

 こんなにも自分を苦しめる優子。
洋子は艶子を苛め抜いてやろうと決めていた。
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