愛してはいけないというあなたと
 叔父夫婦が艶子の家に移り住んできたのは、翌日のことだった。

艶子はこの時はまだ、自分は親族の一員と扱われると思っていたが、それは甘い考えだと知る。

美和(みわ)、この娘を今日から家政婦としてここで雇うことになったの。何か用があれば、この娘に頼みなさい」

 美和は同じ歳で従妹になるが、母と姉の葬式と先日の父の葬式で顔を合わせただけで、ほぼ初めましての相手。
彼女は顔立ちは叔母によく似ているが、体型はふくよかで叔父似。
それから性格はつんけんとしており、とても仲良くなれそうな雰囲気でない。

 叔母が美和に艶子を紹介した時、自分はもう叔父家の中で他人になるのだと理解した。


 
 その日、一番地味なワンピースに着替えさせられ割烹着を渡された艶子は、叔母に全部屋の掃除をしろと命令された。
掃除なんてこれまでゆかりに任せていたため、やり方がわからない。
しかし歯向かうと酷い目に遭うと思い、浴室へ駆け込んだ。

 三人が集まる居間から逃げたく、浴室の清掃から始めた艶子だったが、朝風呂を日課とする美和に怒鳴られてしまうことに。

「ちょっと!あんた浴槽に汚れが付いたままだったわ、もう一度洗い直しよ!」

 洗いたての浴槽を再びゴシゴシと磨いていると、「なんてのろまなの!そんなんじゃ日が暮れるわ、もっと早くしなさいよ!」と、シャワーの水を掛けられた。

 キャッと叫ぶと、「かわいこぶるんじゃないわよ!」と体を押されてしまう。
反射的に涙が零れた。
美和の後ろで叔母が愉快そうに笑んで、気味が悪い。

 なぜ、艶子にここまで意地悪をするのだろう。
仮にも親族であるのに。

 だが、誰が助けてくれることもない。
ゆかりは追い出されてしまったし、立川もいない。

 艶子は改めて孤独になってしまったことを嘆く。
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