君は大人の玩具という。



2人は道を挟んで向かいにある公園に向かって、
どちらかともなく歩き始めた。

特に言葉はなかった。

ただ、風が気持ちよかった。

それに少し、牧の匂いがした。

それだけだった。


「あの後は、大丈夫だったかい?」


真っ暗な公園に着いて、
遠くの外灯と月明りだけを頼りに、
ブランコに腰かけた。


「はい。
 教授たちは真っ青になって帰っていきましたけど」

「だいぶ効いたかな」

「相当効いてましたよ」


牧の長い脚に、ブランコは小さすぎる。

それでも足を浮かして揺れる姿が
あまりに異様で面白かった。


「ねぇ、きょんちゃん」

「なんですか?」


気付けば、もう訂正しなくなっていた。

今更、さっきみたいに呼ばれても
もうしっくりこない気がする。

京子は牧の隣のブランコで
軽く前後に揺れつつ、
牧の言葉を待った。


「僕ね…アメリカに行こうと思う」



< 107 / 145 >

この作品をシェア

pagetop