君は大人の玩具という。
青天の霹靂。
それはまさに、
今みたいなことを言うのだろう。
突然ナイフで刺されたような、
そんな衝撃だった。
そしてこんな時は決まって、
何というのが正解かわからない。
「随分、突然ですね」
「まあね。
日本じゃ仕事しづらくなっちゃったし。
そろそろ外に出るのもいいかな~って」
遠くを見ながら笑う牧は、
本当に笑っていた。
その横顔が、
やけくそでも、諦めでもなく、
しっかり考えて出した答えだと
物語っていた。
カラーレンズが月の光を反射している。
その奥の瞳が、うまく見えない。
しばらくの沈黙が続いてから、
京子はふと思い出して口を開いた。
「後輩さんのこと、聞きました」
「…」
牧は表情を崩すことなく京子を見た。
「婚約者、だったんですか?」
聞いてどうするのだろう、と
口に出してから思った。
べつにどうだっていいことなのに
なぜか聞いてしまうのが、
人間の性というものなのだろう。