君は大人の玩具という。


胸骨から飛び出そうなほど、
心臓は跳ねていた。

そう見えないように、
必死に取り繕う。

だが、牧にはそれすらもお見通しなのだろう。

牧はクス、と笑ってから言った。


「違うよ。
 付き合ってもなかった」

「そうなんですか?」

「うん。でも、大事な人だったけどね」

「…素敵ですね」


真っすぐそう言える関係性が
なんだか羨ましくも感じた。


「アメリカって、
 もしかして干場さんの真似ですか?」

「心外だなぁ。
 僕が行くのはマンハッタン」

「マンハッタン…」


ニューヨーク州ということ以外、
何も知らない。


「まっさんが…あ、藤原がね、
 紹介してくれるって言うから。
 彼も最近まで向こうにいたからね」

「なるほど。すごい世界ですね」


自分には程遠い世界の話だな、
なんて思っていると、
牧が長い脚で一段と強く
地面を蹴って言った。


「きょんちゃんのこと縛って
 アメリカまで持ってっちゃおっかな~」

「…」

「あはっ☆
 なんてね」


京子は何も言わずに夜空を見上げた。

月が、これでもかというほどに明るく、
眩しくさえ思えた。


「…いいですよ」


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