君は大人の玩具という。
手術が無事終われば、
あとは淡々と作業が進む。
患者を麻酔から覚まして
安全を確認できたら病室に返す。
スタッフステーションの受付で
渚が病棟看護師に申し送りをしている間、
京子は手術室で器械を片付けていた。
ドアが開いたその瞬間、
オペ中には感じなかった寒気で肩が震えた。
「きょーんちゃん」
「下の名前で呼ばないでください。
あと私はきょうこです。きょ、う、こ」
「うん、知ってるよ。
でもきょんちゃんって呼びたいの。
だめ?」
京子はゆっくりと振り返ると
その三白眼で、もじゃもじゃ頭を睨みつけた。
「だめ」
「いやん♡」
「喜ぶな」
牧は背付きの丸椅子に跨るように座ると、
タイヤを転がしながら京子の後ろに近寄った。
「25分で終わらせたのに、
ご褒美くれないの?きょんちゃん」
「その25分についていった自分を褒めたいです」
京子は片付けの手を止めずに言った。
牧は「うん、そうだね」と
組んだ腕を椅子の背に乗せた。
「じゃあ僕がきょんちゃんにご褒美あげる」
「…いらないけど、一応何か聞いておきます」
「んー何がいいかな?
…あッ!」
牧は、きゅるんと目を輝かせて言った。
「お注射あげちゃう」
「…は?」
「きょんちゃん専用のお注射な、の
…ギャッ‼」
京子はたまらず持っていた使用済みの
消毒鉗子をそのくるくる頭に振り下ろした。
「殺菌」
髪からぽたぽたとイソジンを垂らす変態を置いて、
京子は器械台を押して部屋を出た。
「き、きょんちゃーん…」
と呼ぶ声はドアに遮られ、
京子の耳に届くことはなかった。