君は大人の玩具という。
#8.約束
ずっと、悩んできたのだろう。
苦しんできたのだろう。
牧の底なしの明るさが、
過去の辛い記憶から
生まれたものだとしても、
守りたい。
そう、心から思ったというのに…
「きょんちゃーん‼♡」
「…なんですか?」
数週間後。
アメリカ行きが確定してから、
牧の停職命令は解除された。
ここにいる残り数日間は、
担当患者の治療に当たる許可が出たのだ。
「今日ダビンチ2件あるから
頑張れのハグして?」
スタッフステーションのど真ん中で
こんな発言をしてのける。
もうこの地に未練はないのだろう。
恥ずかし気のないその姿勢に、
京子は尊敬の気持ちさえ抱きそうだった。
「もう患者さん来てるんだから
早く行ってください」
「えー、ハグは?」
京子は、もうすっかり慣れた
周囲の同情の目を見渡してから、
牧に向き直って言った。
「定時までに2件終わらせてくれたら、
考えてあげてもいいですけど」
牧の目がみるみるうちに輝いていく。
そして、ご褒美をもらえた犬のように
尻尾をふりまいて言った。
「ほんとに!?
じゃあちゃちゃっと終わらせてくる!
待っててね!約束だよ?」
「しっし」
京子が追い払うと、
牧はスキップしながら受付を出ていった。