君は大人の玩具という。



2件目のダビンチが終了したのは、
17時になる10分前だった。


「ロールアウト~」


牧が声をかけると、
MEがロボットを患者の上から撤収させた。

あとは閉創するだけだが、
手術が終わっても
患者が麻酔から覚めて退室するまでの
時間を考えると、17時は過ぎるだろう。

再度手を洗いながら、
牧は時計を見上げつつご褒美が
もらえないことにがっかりしていた。

洗った手がどこにも触れないように上げて、
手術室に戻ると、
京子がガウンの袋を持って待っていた。


「お疲れさまです」

「きょんちゃん!
 僕にガウンを着せるために来てくれたのー?」


パッと漫画の描写のような笑顔で
牧は京子に駆け寄った。

京子は一歩引きつつ、
ガウンの袋を開けて言った。


「外回りの交代で来ただけです。
 今日、細谷さん、
 すぐ帰らないといけないので」

「あ、そういうことね。
 でも嬉しい!」


牧がガウンを受け取り袖を通すと、
京子は背中に回って紐を縛った。


「もう5時ですよ、急いでくださいね」

「うん!でもごめんね、終わらなくて。
 ご褒美のハグしたかったよね」

「いいえ、全く」

「うぅ…」


京子はガウンをピンと引っ張って
紐を縛り終えた合図をした。

牧はむすっと不貞腐れながら
手袋をつけて閉創にあたった。


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