君は大人の玩具という。
20分ほど走ったところで、
夜景スポットとして知られる
山の頂上の駐車場に着いた。
デート中のカップルがちらほらいるが、
暗くて互いの顔は見えない。
誰かに見られる心配がないことを確信して、
京子は車を降りた。
駐車場に戻ってくるカップルを見て、
牧が言った。
「恋人繋ぎ、する?」
「しません」
京子は牧の横を通り過ぎて、
先にある広場に向かった。
「わぁー‼」
目の前に広がる一面の夜景に
思わず感嘆の声が漏れた。
こんな綺麗な景色を見たのは、
いつぶりだろうか。
京子は大きなクリスマスツリーを前にした
子どものように、瞳を輝かせた。
「綺麗…」
学生時代、よくここに来た。
日々追われる試験や実習から
開放されたくて。
でも、働いてから来るとまた違うようだ。
心が洗われていくような、
不思議な気持ちになった。
「仕事終わりには、沁みるよねぇ」
牧がゆっくりと歩いてきた。
京子の隣に並んで、柵に身を預ける。
「きょんちゃん」
「…なんですか?」
京子も柵に手をついて、
遠くの町を見ながら答えた。
「本当に、いいの?」
京子は牧の方を見なかった。
見なくても、わかっていたから。
「あなたが外科医として
100%の力を発揮するには、
私が必要…でしょ?」
「っ…!」
牧が小さく息を飲むのが聞こえた。
ちらっと隣を見ると、
これまた珍しく、
にやける口元を抑えている。
牧は何度も頷いて言った。
「うん!
先に向こうで待ってるね」
「はい。必ず行きますから」
雅俊の計らいで、
京子も牧の行く病院の付属大学へ
院生として留学できることになった。
だが、諸々の手続きの都合上、
京子がマンハッタンへ行くのは
牧が旅立つ3か月後だ。
そして牧の出発日は、
あと5日後に迫っていた。